抄録
本稿では,弁護士の学習を検討すべき社会的背景を踏まえ,企業法務弁護士が日々の職務経験からどのような学びを得ているのかに関し,その具体像を解明することを目的とする。先行研究によれば,弁護士の職務経験を通じた学習メカニズムは具体的に明らかになっておらず,専門職の経験学習の文脈でも,他の専門職の先行研究が存在する一方,日本における弁護士の経験学習の研究は存在しない。本稿では,企業法務を取り扱う法律事務所に所属する弁護士を対象として,職務経験を通じた学習成果および学習プロセスを質的に調査した。結果として,職務経験を通じた企業法務弁護士の学習プロセスは,司法試験で学習した知識の取扱いから始まることが明らかになった。また,企業法務弁護士は,クライアントニーズと法令遵守を調和させる実践を繰り返す中で,ニーズと法令の要請を調和する思考ができるスタイル(法律家としての基盤)を獲得する。そのうえで,企業法務弁護士は,個別の技能を獲得し,自らの専門性を確立していくことも明らかとなった。