日本先天異常学会会報
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母体に投与したグルタミン酸ナトリウムがマウス胎仔の脳におよぼす傷害(予報)
村上 氏廣井上 稔
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1971 年 11 巻 4 号 p. 171-177

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抄録

Olneyは過剰のグルタミン酸ナトリウム(MSG)をマウス乳仔に与えると,視床下部に変化がおこることを明らかにし,また妊婦が大量のMSGを摂取した場合には胎児の中枢神経に傷害がおこるのではないかという疑問をもった.そこで大量のMSGを妊娠母体に皮下投与した場合の胎仔の脳の状態について,マウスをもちいて実験した.MSGをOlneyの方法に準じて,生後2〜4日のCF#1マウスに1mg/g皮下投与し,処理して3時間・6時問後の脳の状態について光顕的に観察したところ,いずれもOlneyの記載同様,視床下部弓状核の細胞に核濃縮と基質の疎鬆化をみとめた.そこで妊娠17日あるいは18日のCF#1マウス母獣に5mg/gのMSGを皮下投与し,主として3,6,24時問後の胎仔の脳を観察した.その結果処理して3時間,6時問後の胎仔のうち,妊娠17日処理群では24例中7例,妊娠18日処理群では27例中16例に脳の傷害がみつかり,出現頻度は18日処理群のほうが高かった.脳に傷害を受けた例では,視床下部腹内側核と弓状核の細胞に明らかな核濃縮がみとめられたが,基質の疎鬆化は乳仔での実験の結果ほど顕著ではなかった.妊娠17日処理群では弓状核よりむしろ腹内側核に傷害の顕著な例が多いようであったが,妊娠18日処理例では腹内側核,弓状核共に多くの傷害をうけた細胞がみとめられた.これらの中には海馬や手綱核にも同様の傷害があった例も多く,また第3脳室下部の上衣に傷害のみとめられた例もあった.このような所見はgoldthiogiucoseによる脳傷害によく似ていた.妊娠17日,18日処理群とも,処理24時問後には傷害のある胎仔はみつからなかったが,修復されて痕跡がなくなったのか,最初から傷害がおこらなかったのかまだあきらかでない.さらにMSGに対する感受性や,傷害のおこる部位が脳の発達の過程によって変化するものかどうか,詳しい研究がまたれている.

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© 1971 日本先天異常学会
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