抄録
アスパラギン酸ソーダ(MSA)をマウス乳仔に大量投与すると脳の視床下部に傷害がおこるという報告がある。そこで本実験では妊娠マウスにMSAを大量投与した時、胎仔の脳にも傷害がおこることを確かめると同時に、MSA処理する発生段階によって傷害に差がみられるかどうか、幼仔と胎仔について検討した。ICR-JCLマウスの生後5日あるいは出生日に6mmole/kgのMSAを一回皮下投与し、一方、妊娠16、17あるいは18日の母獣に30mmole/kgのMsAを一回皮下投与した。対照には食塩投与のものと無処理のものを適用した。処理後3〜12時間問隔で幼仔や胎仔の脳をとりだし、バラフイソ切片、H-E染色により光顕的に観察した。その結果、出生日処理群と胎生18日処理群では、核濃縮と海綿状変化で特徴づけられる傷害が、嗅球、視索前野、海馬、手綱核、視床下部の内側部にみられた。他の実験群では視床下部のみ観察したが同様の傷害がみられた。視床下部の傷害はMSA処理の発生段階によって差がみとめられた。すなわち生後5日処理群では視床下部弓状核とその周辺のみに傷害がみられ・出生日処理群・胎生18日あいは胎生17日処理群では引犬核と腹内側核腹側部そして両核の間の部域に傷害がみられた。胎生16日処理群では主として腹内側核に傷害がみられた。幼仔の脳では処理24〜36時問後に傷害部位に食細胞がみられ、また核崩壊像がみとめられた。処理48時問後には海綿状変化も消え、顕著た傷害はみつからなかった。胎仔の場合では、処理12〜18時問後に食細胞がみとめられ、海綿状変化もしだいに目立たなくなった。処理24時問後にはほとんど傷害はみつからなくなった。このように傷害の修復の過程は胎仔の方が早く進むようだった。