日本先天異常学会会報
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ピロアンチモン酸による沈澱陽イオンを指標としての速中性子被曝後ラット初期心内膜床の電顕組織化学的研究
佐藤 幸男岡本 直正上野 武久宮原 晋一日高 惟登秋本 尚孝池田 高良武富 嘉亮森安 昌次郎
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1973 年 13 巻 4 号 p. 221-233

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抄録
心内膜床は、初期の心臓発生分化の一時期に心筋細胞層と心内皮細胞層との間及び大動脈幹の内腔に位置して中胚葉性の未分化な細胞又びムコ多糖類を含み房室間口では弁の形成、動脈幹では大動脈と肺動脈の区分に役割を演ずるところから、その発生分化の異常は心の弁や、中隔、動脈等の異常発生につながるものとして重要祝されている。一方、鶏胚の初期心臓管の心内膜床に尚浪度のNa^+が存在する事が主として生化学的方法で確かめられ、その電顕組織化学的手法による検出も開発応用の域に達し、特に心内膜床では、蛋白-多糖類-陽イオン複合体の結合様式の假称も提唱されているが、ラット心内膜床については、特に異常発生と云う見地からも未だ観察の対象外にある。本実験では、妊娠8日目ラット母体に、その胎仔に高率に心異常を惹起する速中性子130radを照射し、得られた胎生10-13日の房室間口心内膜床を、ヒロアソチモン酸とオスミウムの混合固定液による電顕組織化学的処理を行い、生ずる沈澱物(主としてNaつの単位山峨当りの数を算定した。その結果、対照ではNa^+顆粒は心内膜床の無定形、且つ電子不透明な物質及び線維素状物質に一致した局在を示し12-13日で経時的に漸減する。この結果は鶏胚における報告と一致し、心内膜床におけるNa^+の経時的減少、ムコ蛋白の減少とそれに次ぐムコ多糖類の増加及び細胞や線維成分の珊殖等がその原因と見敵される。一方、対照群では胎生10一13日頃、胎仔及びその心内膜床の多くは約1日の発育遅延を示し特に照射2日後(胎生10日)ではその発育逃延のため未だ房室間口心内膜床が出現せず、従ってNa^+も検出されない。照射後3日目に少量のNa^+が認められたが対照に比べて低値を示し照射後4-5日にほぼ正常に復するが、その経時的変化の推移は対照と比べて平行的ではなかった。これらの結果から、被検群の心内膜床の変化として(1)心内膜床の発育遅延のため含有されているNa^+が少い。(2)心内膜床の発育遅延のためその中のムコ多糖類又は蛋白成分が少く、それに結合するNa^+が減少する。等が考えられ、心内膜床の異常発生の一因を成している事が示唆された。
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© 1973 日本先天異常学会
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