日本先天異常学会会報
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鶏胚を用いた実験的心奇形の作成 : 遠心力の催奇形性
石川 自然高尾 篤良安藤 正彦森 克彦
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1975 年 15 巻 1 号 p. 11-27

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抄録
人の先天性心奇形の成因や,形態形成を解明するため,実験的心奇形作成の重要性が最近再認識されるようになってきた.我々は,受精卵に遠心力を加える事によって心奇形を発生せしめた.実験目的;重力の増加が催奇形作用を有するかどうかについて検討し,もし心血管系に対する催奇形作用があるとすればどのような心奇形が発生するかを検討した.実験対象と実験方法;白色レグホン卵を用い,鶏胚心の一対の原基が完全に融合しtraight tubeから右側に心loopを形成する時期に相当する〓卵後32〜40時間頃(somite 12-18)に重力負荷を加えた.常に受精卵は保温器にて38℃に保ち,重力負荷は室温(21℃)の状態で施行した.実験はf=0,529Xm.gr.force(m=mass of heart)を9時間にわたって受精卵に加えた.鶏胚における心大血管の形成は10日までにはほぼ完成されると考えられるので10日以上生存した症例についてのみ心血管形態の異常有無を調べた.対照群も負荷群に遠心力を加える時期に一致して室温におき10日以上生存したものを使用した.心血管形態は2.5% glutaraldehyde液を150〜200μの大きさの毛細管ピペットを用いて心尖部より注入し拡張した状態で固定し,24時間後に実体顕微鏡下で検索した.実験成績;重力負荷群48例中37例が〓卵後10日目まで生存し,そのうち20例(42%に心奇形が発生していた.残り死亡例11例の中に6例(12%)の心奇形が認められた.対称群48例中43例が10日目まで生存し,5例(10%)が死亡していた.生存例43例のうち僅か4例(8.3%)に心奇形形が認められるのみであった.以上のように対称群に比し負荷群ではP<0,001で先天性心奇形がみられた.実験群でみると心奇形は心室中隔欠損10例(20.8%),両大血管石室起始1例(2%),心房中隔欠損3例(6.2%),大血管系異常12例(25.1%)であった.対称群の4例は円錐部心室中隔欠損のみで,欠損孔の大きさは実験群より小さかった.結語:従来の報告にみる催奇形実験のうち物理学的あるいは器械的因子による催奇形性の研究は,今回我々の行なった鶏胚に重力負荷を加えることと負荷の方法は違うが目的を一にする.従来は血行力学的処理の実験として鶏胚を用い心大血管に微細な針金を操作し一部の血流を遮断あるいは変化させる事によって心奇形を発生させていた.これらの実験は直接鶏胚に実験操作を行うということで,主として器械的に血流の方向を変化させる以外に副要因として発生段階の鶏胚に生理的,形態的変化を及ぼす事も充分に考えられる.本実験では有窓法を用いず外的な因子を作用させたところに一歩臨床に近づけた.本実験は今後さらに検討を要する点が多いに残されている.そのうち,遠心力が胎児の心loopに対してどのような方向で作用したのか,またその力及び方向を変える事によってある一連の心奇形のみが生ずるかどうかを検討する必要があると思われる.本実験でみられた心奇形は環境因子の一つである遠心力が鶏胚の心大血管系に作用する事によって血液のうっ滞,血液の方向などに変化がおこり種々な心奇形が生じたものと思われる.
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© 1975 日本先天異常学会
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