抄録
病理学的検査は,化学物質のリスク評価を行う上で重大な役割を果しているが,担当者個々の観察と評価に依拠する定性的な性格を持つが故に,その精度と信頼性を維持するため,何よりも担当者の高度な技術と深い経験が要求される.したがって,毒性病理学的な教育を質量共に十分なレベルで行うことは化学物質のリスク評価・管理にとってきわめて重要であるが,この点で我が国の現状は必ずしも十分でない.財団法人 佐々木研究所の前川昭彦研究所長は,このことを憂えられ,前任地在職時に既に行っておられた教育事業を発展的に継承する形で立ち上げられた佐々木研実験動物標本検討会において,1992年から2005年まで13年間にわたって,研究機関や企業において病理学的検査に携わる若手・中堅の実務者を対象とした毒性病理学的教育を行ってこられた.本項は,その全期間にわたって多大な御協力をいただき,御自身も若手の教育に尽力しておられる奈良間功摂南大学教授に,同検討会の足跡を通して,化学物質のリスク評価・管理における毒性病理学的教育の重要性について御執筆いただいた.<要旨文責:本特集企画担当,中江大 (財団法人 佐々木研究所病理部)>