日本化学療法学会雑誌
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ヒト唾液より分離した嫌気性グラム陰性桿菌の薬剤感受性
木下 智尾上 孝利佐野 寿哉杉原 圭子大宮 真紀松本 和浩西崎 健生栗林 信仁山本 憲二田伏 信村田 雄一石川 英雄小西 康三佐川 寛典白数 力也
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1998 年 46 巻 7 号 p. 254-260

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抄録

歯性感染症の化学療法に用いる抗菌薬を検討するため, ヒト唾液常在菌叢より嫌気性グラム陰性桿菌を分離し, ampicillin (ABPC), cefaclor (CCL), cefteram (CFTM) およびofloxacin (OFLX) のMICとβ-lactamase産生性を調べた。嫌気性グラム陰性桿菌は50名中41名より合計77株得られ, 同定の結果, Prevotella melaninogenicaPrevotella intermediaなどの黒色色素産生性グラム陰性桿菌が多数を占めた。Prevotella, Porphyromonas gingivalisおよびBacteroides ureolyticusに対する各抗菌薬のMIC分布域は広く, CCL, CFTMおよびOFLXのMIC分布は2峰性を示すことより耐性限界値を定め, この他を超えて発育する株を耐性菌とした。耐性限界値はCCL, CFTMおよびOFLXでそれぞれ32, 16および16μg/mlであった。また, ABPCでは3峰性を示し, 耐性限界値は1μg/mlで, 16μg/ml以下を中等度耐性菌, 16μg/mlを超えるものを高度耐性菌とした。Fusobacterium sp. や未同定株も同様にMIC分布から耐性限界を定めて耐性菌を分離した。耐性限界値はFusobacterium sp.ではCCLで16μg/mlを示し, 未同定株ではABPC, CCL, CFTMおよびOFLXでそれぞれ64, 16, 32および16μg/mlであった。耐性菌は合計41株分離され, 1薬剤耐性が16株, 2薬剤耐性が8株, 3薬剤耐性が16株および4薬剤耐性が1株であった。β-Lactamase産生菌は32株検出された。そのうち3株は3種β-lactam薬に感受性であった。OFLXに耐性を示す菌株のうち1株からβ-lactamaseが検出されたが, β-lactam薬耐性は示さなかった。5株のOFLX耐性菌はβ-lactam薬にも耐性を示した。以上の事実は11腔常在菌叢である唾液中にβ-lactam薬耐性, β-lactamase産生性あるいはOFLX耐性の嫌気性グラム陰性桿菌が生息しており, 内因感染症である歯性感染症に対して化学療法を実施するときは, 注意深く抗菌薬を決定し用いなければならないことを示唆している。

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