わが国の樹木の遺伝構造は日本列島の形成過程や種の移入時期や経路などと密接に関連している。日本列島の原型は約800万年前に形成され、現在の日本では亜熱帯から亜寒帯までの気候帯が存在する。また日本海側と太平洋側で冬季の気候が大きく異なり、これも遺伝的分化を促進させている。過去30万年の間にも3度の氷期を経験し、植物は気候に応じて分布変遷を繰り返して、現在の分布を形成している。この分布変遷の過程で集団の保有する遺伝的組成も変化し、分布域全体を見ると遺伝的に少しずつ異なった集団が形成されている。この遺伝構造は遺伝的多様性や進化の可能性を残す意味でも重要であり、将来にわたって保全する必要がある。そのために森林の人為的な攪乱を最小限にする樹種の種苗移動の遺伝的なガイドラインを整備する必要がある。