地理科学
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松江周辺の沖積平野の地形発達
林 正久
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1991 年 46 巻 2 号 p. 55-74

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抄録

松江市周辺の松江平野と意宇平野において,地形分類やテフラを指標とした沖積層の分析,風土記など歴史的資料の検討から,地形発達を考察した。平野地下にみられる基底礫層はATに覆われており,2.5-3万年前の最終氷期の海退期に形成された。意宇平野では,基底礫層の上下にも別の海退期の砂礫層カ唯在する。下位の層は3万年前より古い時期の砂礫層である。上位の砂礫層は晩氷期の海退によるもので,その一部は,意字平野西部の扇状地面に続いている。後氷期には海面の急激な上昇が起こっている。海面高頂期は6000-5000年前と推定され,砂州の頂面高度からみて,海面は現在より2-3m高い位置に達した。この時期に宍道湖と中海は外海と通じ,島根半島が切り離された。その後,海水準が低下し,海進時に堆秩した海成属が離水して,三角州I面が形成された。後氷期の小海退は3200年前以前に始まり,弥生時代まで続く。小海退期の海面は,現在より少なくとも2m低下し,三角リ'1.lI面を数m切り込む河道が形成された。小海退期以降,内方の出雲平野が島根半島とつながったため,宍道湖は中海だけを経て外海と結ばれるようになる。その後,海面は現在とほぼ等しくなり,三角州n面の形成が始まる。風土記の時代(8世紀)までに,意宇平野では三角州n面の形成はほぼ終了したが,松江平野の一部には宍道湖から続く湿地状の浅い湖(古松江湖)が残っており,近世初頭になって潟湖の埋積が完了する。なお,3万年前より古い時期の礫層の残存状態や海退期の谷底高度からみて,最終氷期後半以前には,中海側が宍道湖側に比べて柚対的な沈降傾向にあったと推測される。

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