地理科学
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論説
  • ――大分県佐伯市入津地区を事例として――
    穂積 謙吾
    原稿種別: 論説
    2025 年 80 巻 2 号 p. 29-57
    発行日: 2025/05/28
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,大分県佐伯市入津地区を事例として,赤潮の頻発する海域の1つで魚類養殖業を続けている経営体が,主に1995年以降にどのような経営努力を重ねてきたのかを明らかにすることを目的とした。それに向けては,平時の取り組みと赤潮発生時の対応,赤潮への認識が果たしていた役割に注目した。分析対象となった経営体の平時の取り組みは,一定の利益の確保に向け,自身の営む養殖業を取り巻く経営環境に合わせて魚種や生簀の台数,放養尾数,魚のブランド化の有無を選択することであった。これらの取り組みは,日常的な利益向上を第1の目的とはするが,結果として赤潮の被害に起因する損失の縮小と,損失の早期回収を可能とする利益の確保に繋がりうるものであった。赤潮発生時の対応は,自身の営む養殖業に応じた方法で,魚を有害プランクトンから隔離したり魚の酸素要求量を抑制したりすることであった。これらの対応は,魚の斃死の防止と,平時並みの水準の利益の確保に繋がりうるものであった。こうした平時の取り組みと赤潮発生時の対応を可能としたのは,赤潮の深刻さや,一連の対応の重要性に対する対象経営体の認識であった。以上から,対象経営体は,赤潮への認識に基づき,平時には赤潮に起因する経営悪化の回復とそこからの早期回復に結果的であれ資する取り組みを実施するとともに,赤潮の発生時には迅速かつ適切に対応し被害を可能な限り防ぐよう努めてきたと結論付けた。

研究ノート
  • ――施政権返還後における就職移動の制度化と経験――
    山口 覚
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 80 巻 2 号 p. 58-82
    発行日: 2025/05/28
    公開日: 2025/05/28
    ジャーナル 認証あり

    曖昧なイメージによって語られることが多い集団就職という労働力移動現象は,様々なアクターの動向や地政学的付置が重層することによって各地で多様な姿を示すことになる。また広域職業紹介や集団赴任といった労働行政の諸制度に注目すれば,集団就職がその地においていついかなる形で始まり,終了したかが明確になる。就職者個々人の経験についても未解明の部分は多い。本稿の目的は鹿児島県奄美群島からの集団就職を対象にそれらの諸点を解明することにあり,地方新聞の記事や就職者向けの冊子などを資料として用いた。奄美群島では1953年12月に米軍から日本政府へと施政権が返還され,同地の集団就職は1955年に開始された。県外への集団赴任には就職船が利用され,1974年までに全56陣が確認された。新規中卒者たちは遠隔地の就職先で様々な問題に直面したが,集団就職は他出の機会を提供するという積極的な側面も有した。1950年代には中小企業からの求人が多かったが,1960年代には大企業からの求人が増加し,相応に良好な生活を送る者も増えた。地元の主要産業である大島紬製造業の従事者も集団就職との比較の中で地元就職を選択した。本稿は特定の場所における集団就職の全体像を描き出す試みの1つとなる。

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