智山学報
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『現観荘厳論光明』における順決択分
笠松 祐紀
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2016 年 65 巻 p. 0373-0384

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抄録

    『現観荘厳論光明 般若波羅蜜釈』(Abhisamayālamkārālokā prajñāpāramitāvyākhyā)は、八世紀頃のハリバドラ(Haribhadra)による著作である。これは『二万五千頌般若経』(Pañcavimśatisāhasrikā prajñāpāramitā)の註釈書である『現観荘厳論』(Abhisamayālamkāra)の註釈書である。
 しかしながら、『現観荘厳論光明』は、『現観荘厳論』に対して註釈を行う際に、ただ註釈を施すのではなく、『八千頌般若経』(Astasāhasrikā prajñāpāramitā)を逐一引用して註釈を行うという珍しい形をとっている。
 また、今回取り上げる順決択分とは、『現観荘厳論』における修行の階梯の一つであり、凡夫から聖者へと移行する直前の段階にあたる。具体的には、煖(usmagata)・頂(mūrdhan or mūrdhāna)・忍(ksānti)・世第一法(laukikāgradharma)という四つの位から成っており、四善根位とも呼ばれる1)。この順決択分を取り上げた理由は、この修行階梯が思想的特徴の表れる部分とされているからである。例えば、唯識派は順決択分を、所取の無から能取の無への階梯であるとしている2) 。よって、『現観荘厳論光明』の研究においても、追究する意義があると考えた。
 したがって、本稿では『現観荘厳論光明』における順決択分の特徴を、説一切有部における順決択分との比較を通して考察したい3)。なお、順決択分は『現観荘厳論』の第一章から第三章のいずれにも見られるが、紙幅の都合上、今回は仏の智慧である一切種智性を取り上げた第一章の、煖位と頂位について言及する。独覚の智慧である道種智性に関する第二章、声聞の智慧である一切智性に関する第三章は、共に第一章を基準にしているため、第一章に着手するのが適切であると考えた。
 『現観荘厳論光明』は全体の和訳が出版されておらず、順決択分の部分についても、現在和訳が公表されていない。本稿は和訳の存在しない部分に対して、和訳を提示するという意義もあると思われる。

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2016 智山学報
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