そもそも浄土に「還る・帰る」という表現は、浄土から来たということを前提にしないと成立しないものである。平成21年3月21日には、勧学会より「往生浄土の解釈について」という答申が出されそこには、
浄土宗としては、往生の後に成仏するということが絶対であるため、「浄土(極楽)に(へ)帰る(還る)」という表現を用いることを不可といたします(1) 。
と記されている。浄土宗の立場は、勧学会の答申以外のものではあり得ず、ことさらに論ずるべきことはないといえよう。その後、平成26年に大本山百万遍知恩寺布教師会の主催で、この問題を改めて考える研修会が開催され、その際に筆者も講師の一人として参加させていただいた(2) 。本論では、法然上人(以下、祖師の敬称を略す)の「還る・帰る」の使用例を整理し、この問題について考察してみたい。