智山学報
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学如撰『真言八祖有部受戒問答』〈紹介と翻刻〉
佐竹 隆信
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2016 年 65 巻 p. 553-602

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抄録

    江戸時代後期、御室より安芸国の福王寺が有部律の道場として認められた。上田天瑞氏によれば(1)、その際、福王寺の僧学如(1716~1773)は御室に『真言律行問答』、「福王寺を有部律復興の道場とする願書」、『真言八祖有部受戒問答』の三書を提出したとされる。これらのうち『真言律行問答』、「願書」の二書についてはすでに些かの紹介を行った(2)。残る『真言八祖有部受戒問答』は左の二本の中に收められている。
 1 『小部類集』 (写本) 写年不明 福王寺蔵
 2 『真言律行問答』(謄写本) 昭和九年刊 高野山大学図書館蔵
 1は学如の自筆ではなく転写本と考えられ、いくつかの著作を一冊にまとめたものであるが、他の諸著作については別な機会を待ちたい。また2の高野山大学図書館本は『国書総目録』で活字本とされているが、電子複写された物をみると謄写本であると考えられる。また2の謄写本は前稿でも述べたように(3)、長谷宝秀氏が福王寺所蔵のものを書写し、後に謄写した本であるが、多くの誤脱箇所が確認された。福王寺所蔵本を写したものではあるが、それは1の本ではないと考えられる。
 今現存しているのはこの二本であるが、本書の奥書には(4)
  明和三年十一月於金亀山方丈書獨語
とある。前述したように御室に三書を奏上したとすれば、他の二書の成立年代から考えると『真言八祖有部受戒問答』は少し遅れて成立したと言えるだろう。しかし、御室に提出したか否かは確実ではない。また本書は『真言律行問答』や「願書」の内容と大きく異なる点はないが、先の二書にはない論述もみられ、学如の主張を読み解く上で重要と思われる。また本書はこれまで二本しか存在が確認されず、広く普及しているとは言い難い。そのため資料として福王寺所蔵本を底本として翻刻を後半に付す。

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2016 智山学報
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