『大乘起信論』の注釈書である『釈摩訶衍論』は、題名だけではなく本文においても『起信論』を「摩訶衍論」と称して、『釈論』の独創的な「摩訶衍」の理解を表わしている。これを明らかにするために、『起信論』に「摩訶衍」が使われている箇所に関する慧遠、元曉、法藏、曇曠、太賢、宗密、眞界、『釈論』の解釈を検討する。その結果、『釈論』を除いた他の注釈書は『起信論』を解説しながら「摩訶衍」を「大乘」に置き換える共通した傾向を示している。しかし『釈論』は「摩訶衍」を使用した部分は、そのまま「摩訶衍」をもって述べている。なぜなら、摩訶衍[利根]を大乘[鈍根]より上位として設定し、「摩訶衍」で新しく作られた概念の不二摩訶衍と十六所入法を含ませて範囲が広げられているのである。故に、『釈論』に『起信論』は大乘より広範囲で秀勝な「摩訶衍」を説明する論になり、題名を「釈大乘起信論」よりも「釈摩訶衍論」にしたと推定される。