抄録
近年、遷移金属を含む環を持つ遷移金属錯体において、キレート配位子のπ軌道
と遷移金属のd軌道の共役により芳香族性を示すとされる。遷移金属を含んだ環
構造を有する遷移金属錯体では、キレート配位子の炭素のπ軌道と2種類のd軌道
が共役できると考えられる。しかしながらこれらの軌道の違いによる芳香族性へ
の影響はヒュッケル則では考慮することは出来ない。本研究では、遷移金属-キ
レート環部位の芳香族性についてab initio分子軌道法により定義されるIDAを用
いて理論的に調べた。IDAは既存のNICSやHOMAに代表される理論的な芳香族性の評価手法と異なり、取り扱った錯体の芳香族性を定量的に評価することができる。また、キレート配位子以外の配位子を用い、配位子の違いが芳香族性へと与える影響についても系統的に解析した。