抄録
アルツハイマー病は認知症の中で最も多い症状であり、その発症にはアミロイドβタンパク質(Aβ)の脳内で の凝集が関係している。しかし、Aβの凝集機構は未解明な点が多く、より効果的なAβ凝集抑制剤を開発する 際のボトルネックになっている。本研究では、Aβの凝集機構の初期段階を解明するため、レプリカ交換MD法を用い、水中での Aβ(1--42)二量体の安定配座を広範囲に探索し、ab initioフラグメントMO計算を用い、最安定配座を決定した。さらに、フラグメントMO計算の結果から、一方の Aβ単量体のLys16ともう一方の単量体のN末端に含まれる負荷電アミノ酸間の静電引力相互作用が、二量体の安定化に重要で あることを明らかにした。また、それらのアミノ酸間には複数の水分子が存在しており、Aβの周囲に存在する水和水が Aβ二量体の安定化に寄与していることが、今回の分子シミュレーションにより明らかになった。