抄録
コンピュータの普及・高速化に伴い、計算化学を化学反応の理論的考察において重要な役割を果たしている。また、情報科学的手法も化学反応を研究するツールとしてその重要性が増している。本研究では、この二つの手法を組み合わせ、計算化学で最も困難とされている遷移状態の探索を行わずに置換基の異なる基質により変化する活性化自由エネルギーΔG‡の予測を試みた。その目的で、aza-β-lactamがprotein phosphatase methylesterase 1(PME-1)の活性を阻害する反応を対象にPME-1のセリン残基をメタノールでモデル化し、体内での反応を考慮して水一分子を取り入れた反応機構に対して理論計算を行い、得られたΔG‡を目的変数とする多変量解析を行った。説明変数には理論計算により得られた反応物のHOMO、LUMOのエネルギー準位やGRAGONプログラムが作る構造因子に関わるパラメータ及びWinmosterを用いて算出した分子体積も併用した。Chemishプログラムを用いてPLS回帰分析を実施したところ、LUMOのエネルギーやハメットのσ値が大きく関与するR2=0.932、Q2=0.915の良好な回帰モデルが得られた。