遷移金属錯体における形式酸化数は、幾何構造の推定や均一系触媒の反応性の理解、酸化還元特性の理解などのために頻繁に用いられる。一方、量子化学計算による電荷は、個々の原子の電子状態を解析するために用いられるが、様々な効果が複合されるため、形式酸化数とはしばしば定性的に異なる挙動を示す。そこで本研究では、量子化学計算に基づき形式酸化数を解釈し、電荷との関係を明らかにすることで、電荷から派生する種々の効果に分割する手法を提案する。その結果、本定義により算出した形式酸化数はIUPACの定義による形式酸化数を完全に再現すること、電荷を酸化数・結合成分・残留成分の異なる挙動を示す成分に分割できることがわかった。それぞれの成分は反応性解析への応用や機械学習における新たな記述子として用いることが期待できる。