抄録
【目的】脊髄クモ膜嚢腫は比較的稀な疾患であり、硬膜外発生例は全脊髄腫瘍の1%にすぎない。発生部位別に見た場合、胸椎部での発生が多く、腰椎部での発生は稀である。今回、我々は著明な骨侵食を呈した腰椎部硬膜外クモ膜嚢腫の1手術症例を経験したので報告する。【症例】28歳、女性。3ヶ月前より持続する腰背部および右大腿前面から外側にかけての疼痛を主訴に当科を初診した。初診時の単純X線でL2/3の両側椎間孔、L2、L3の椎弓根間距離の拡大と椎弓に著明な骨侵食像を認めた。腰椎MRI矢状断像にてL1からL3の硬膜管背側にT1強調像で低輝度 , T2強調像で高輝度を呈する大きさ18×32×70mmの嚢腫病変を認め、硬膜管は腹側へ圧排されていた。脊髄造影後CTおよび3時間後のdelayed CTとの比較では、嚢腫への造影効果の増強がみられるも硬膜管との交通孔は確認できなかった。手術は、臨床症状より交通孔の場所を推定し、右側片側椎弓切除によるアプローチで嚢腫摘出術を行った。術中に右L2神経根の分岐部近傍に交通孔が認められた。術後に臨床症状は消失し、脊椎不安定性も生じていない。【考察】脊髄硬膜外クモ膜嚢腫の術前画像検査による交通孔の正確な場所の同定は困難な場合がある。今回の経験より、術前画像検査による交通孔の同定が不可能な場合、アプローチ法の選択に臨床症状のlateralityを考慮すべきであると考えられた。