理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 116
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理学療法基礎系
ラミニンを抗原とした多発性筋炎モデルラット作成の検討
*中野 治郎沖田 実吉村 俊朗本村 政勝江口 勝美
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抄録
【目的】
 多発性筋炎に対する理学療法では、残存機能の賦活や廃用性筋萎縮の予防・治療を目的に運動療法が実施されるが、その有効性や安全性は未だ明らかにされていない。そして、この課題を解決していく第一段階としては、多発性筋炎の動物実験モデルの作成が不可欠となるが、有効な方法は確立されていない。一方、筋細胞基底膜に分布するラミニンタンパクは筋線維の機能維持に重要な役割を果たしていると考えられており、その欠損は筋線維壊死を誘導する。そこで今回われわれは、ラット生体内のラミニンを人為的に免疫化し、多発性筋炎モデルの作成を検討した。
【方法】
 Wistar系ラット(雌、8週齢)を実験群、対照群に振り分け、実験群にはラミニンとフロイント完全アジュバント(Freund’s complete Adjuvant:以下、CFA)の混合液0.3mlを皮内注射により投与し、この操作を隔週3回繰り返した。また、対照群にはCFAのみを同様に投与した。3回目の投与から2週後、麻酔下で尾静脈から採血し、右側のヒラメ筋、長趾伸筋、腓腹筋、前脛骨筋、総指伸筋を採取した。そして、筋試料から凍結横断切片を作成し、H&E染色ならびにCD4、CD8、B細胞、貪食細胞に対する抗体を用いた免疫組織化学的染色を施して検鏡した。なお、CD4抗体はヘルパーT細胞、CD8抗体はキラーT細胞のマーカーである。一方、血清はウエスタンブロッティング法によるラミニン自己抗体の検出に供した。
【結果】
 筋横断切片に一カ所以上の炎症所見が認められたものを筋炎の発生とし、各筋の発症率を検討したところ、腓腹筋は約6割、ヒラメ筋は約5割、前脛骨筋と長趾伸筋は約4割、総指伸筋は約1割であった。また、筋炎の程度はヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、長趾伸筋、総指伸筋の順に重症であった。次に、ヒラメ筋を検索材料にその免疫組織化学的染色の結果を検討したところ、対照群に比べ、実験群のヘルパーT細胞、貪食細胞は著明に増加しており、それぞれ壊死筋線維周囲、壊死筋線維内外に多く分布していた。一方、実験群すべてのラットの血清からラミニン自己抗体が検出された。
【考察】
 タンパク質をCFAに混合して動物に投与すると、そのタンパク質が免疫化されることが知られており、様々な自己免疫疾患の動物モデル作成法として用いられている。同様に今回、実験群にラミニンを投与すると、血清内からラミニン自己抗体が検出され、骨格筋には炎症所見が認められた。これは、筋細胞基底膜のラミニンに自己免疫反応が生じ、その結果として筋炎が惹起されたものと推測できる。また、その病態は、ヘルパーT細胞の増加と筋線維壊死が特徴であり、ヒト多発性筋炎とも類似する。したがって、本モデルは多発性筋炎に対する運動療法を検討するための基礎実験に利用できると考えられ、今後は発症率を高める工夫に加え、運動負荷実験などを実施していきたい。
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© 2004 日本理学療法士協会
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