理学療法学Supplement
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第54回日本理学療法学術大会 一覧
第7回日本運動器理学療法学会学術大会
繋ぐ ─学術と臨床の連携─
基調講演
  • 木村 貞治
    セッションID: A-63
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     超高齢社会に突入している我が国では,理学療法の対象として,変形性関節症,脊椎圧迫骨折,サルコペニア,フレイルなど加齢に起因する運動器の構造や機能の変化によって日常生活に支障を来す高齢者の方々の占める割合が高くなってきていると思われます。また,スポーツ外来等を通して,腱板損傷,膝前十字靭帯損傷,シンスプリントなどのスポーツ傷害に対応することも多いものと思われます。このような運動器疾患を有する方々に対する理学療法では,対象者の精神・心理状態に応じたコミュニケーションの取り方,疼痛に対する物理療法や徒手療法の内容,レジスタンストレーニングにおける負荷の方法,起居動作や歩行動作における動作練習の方法,病棟や自宅でのセルフエクササイズの内容など,疾病・障害特性,残存機能,ニーズに即した様々な評価・治療・指導に関する臨床判断(clinical decision making)に基づいて,理学療法士の行動が選択されます。このような医療における臨床判断の妥当性を高めるための行動様式が,1991年にカナダのマクマスター大学のGuyattによって提唱された「根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)」です。EBMは,その後,看護や理学療法など多様な領域に導入されてきたため,現在では総称して「根拠に基づく実践(Evidence-based Practice, EBP)」という表現が用いられるようになってきました。

     理学療法におけるEBPの真骨頂は,対象者の臨床的疑問点(clinical question, CQ)に対する理学療法士の知識,技能,中立的な経験則などの臨床能力と,施設の設備・環境に,臨床研究による実証結果であるエビデンスの内容“も”加えて,評価・治療・指導の基本方針を立案し,それを対象者に丁寧に説明することで,対象者の意向や価値観との折り合いをつけ,できるだけ安全・効果的で対象者中心型の理学療法を提供するということにあります。したがって,対象者のCQに関連したエビデンスがヒットしても,他の要素との総合判断によっては,その内容を実践しないという臨床判断が行われることもあります。大切なことは,漫然とした経験則だけで理学療法を進めるのではなく,対象者のCQに関連した質の高い臨床研究の実証結果であるエビデンス“も”参照して判断することで,より安全で効果的な理学療法を提供するというプロフェッションとしての自覚と矜持に基づいた行動を実践することだと思います。そして,そのようなEBPの行動様式を多忙な臨床現場で効率よく実践するためには,具体的な進め方の要点を理解することが重要な鍵を握ることになります。基調講演では,運動器疾患の理学療法における学術と臨床を繋ぐためのエビデンスの活用方法の要点についてお話をさせていただきます。

  • 山内 正雄
    セッションID: A-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     世界理学療法士連盟(以下WCPT:World Confederation for Physical Therapy)は12の下部団体を持っている。その下部団体の一つであり,徒手理学療法士で構成されている団体が,世界徒手理学療法士連盟(以下IFOMPT:International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists)である。このフレームワーク文書は,そのIFOMPTの教育基準委員会と国際的な頚椎の専門家が協力して2012年に作成されたもので,その時点での最善の臨床に対するクリニカルリーズニングのフレームワークである。現在,2020年の改訂に向けて,新しいフレームワークの試案が作成されている。

     徒手理学療法士(OMPT)は,神経筋肉骨格系に機能不全のある患者の治療のために,クリニカルリーズニングに基づき,徒手による技術と運動療法を含む高度な治療を使用する。そして,その評価や治療手技は,科学的・臨床的なエビデンスに基づき,生物・心理・社会的フレームワークを含んでいる。そのため,このフレームワークは,OMPTの治療に先立って,頚椎の動脈機能不全(CAD)を合併している可能性のある患者に対して,エビデンスに基づいた頚椎領域の評価を行うためのガイダンスを提供するために作成されたものである。

     我々OMPTの臨床場面において,頸椎領域にCADの症状がみられる患者はあまり多くはいない。しかしCADの症状を持つ患者がゼロではないため,OMPTは評価の一部としてCADを考慮しておくことが必要であると考える。例えば,患者の病歴取りにおいてCADに関する適切な質問をいくつか加えるだけでもよい。そして,その結果に基づきCADの適切な評価を行うことで,CADの患者を鑑別することが可能になるか,医師と相談してさらに詳細な評価を行うことも可能である。IFOMPTのこのフレームワークは,患者に出現しているCADの症状を,OMPTが治療を行う前に同定するため,エビデンスに基づいて患者の病歴からそのリスクを見つけ出し,最善の評価を行うためのものである。

     このフレームワークは,患者の評価と治療のプロセスの一部として理学療法士のクリニカルリーズニングを支援することが目的である。そのため,フレームワークは,単純でしかも柔軟であるように作成されている。OMPTは,このフレームワークを個々の患者にうまく適応することで,患者中心の診療がより容易にすることができる。

     このフレームワークの重要な基本原則として,OMPTが結論を出すために1つのテストだけの結果に頼ってはいけないということがある。数多くの情報に基づき,整然と計画された個別的評価を行うことで,患者の症状の理解を深めていくことが必須である。患者評価のプロセスから,CADの確率を推定するための信頼性を改善するために入手可能な多くの情報源があるが,クリニカルリーズニングの情報源として利用可能なデータは,現在進行形で改善され,変化している。このためエビデンスベースが利用できない場合は,このフレームワークでは理学療法士が臨床的判断のサポートを可能にするために,最近の文献を批判的に読むことを奨励している。

     今回の講演をきっかけにして,多くの人がこのフレームワークに興味を持ち,使用していただき,さらにIFOMPTについて興味を持っていただけるようになれば幸いです。

教育講演
  • 荒木 茂
    セッションID: A-65
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     運動器疾患に対する運動療法は個々の筋の筋力強化や可動域運動だけでなく,機能的な動きを向上させる必要がある。運動の量ではなく質を改善させる運動プログラムを患者の問題点に合わせて考えることが重要である。関節,筋,神経といったハードウエアーの治療だけでなく異常な運動パターンの修正を考慮した脳のソフトウエアーの治療を目的とした機能的運動療法が必要である。

     

    物理的ストレスと累積加重型損傷

     腰痛や,股関節,膝関節痛など運動器疼痛症候群は明らかな外傷や,腫瘍,感染症などレッドフラッグを除けばその人の長年の姿勢や生活習慣,職業,スポーツなどが特定の組織に物理的ストレスが持続的,または繰り返しにかかることによる累積加重型損傷が多い。持続的または繰り返される小さな物理的ストレスは患者が意識しない間に徐々に組織の耐性を低下させ,ある時小さな物理的ストレスで構造的損傷を起こす。習慣となった姿勢アライメントや運動パターンの異常は機能障害の原因になる。構造的損傷を起こす前にその原因を除去し,組織にかかる物理的ストレスを一定時間リセットすることにより組織の耐性は回復する。痛みにある部位を治療し患者の訴えが一時的に改善したとしても原因となっている異常姿勢アライメントや異常運動パターンを適切な運動療法により改善しなければまた累積加重型損傷は再発を起こす。

     

    マッスルインバランスと関節のインバランス

     Jandaらは,筋の損傷や,物理的ストレスに対する筋の反応により筋のタイプを姿勢筋(Postural Type)と相動筋(Phasic Type)に分類している。

     姿勢筋は過緊張,短縮する傾向にあり,相動筋よりも筋力は強く主に多関節筋である。これに対して相動筋は,筋力が姿勢筋に対して弱い傾向にあり,正常な状態よりゆるんだ状態になりやすく主に単関節筋が多い。姿勢筋の過緊張は相反抑制によりその拮抗筋を抑制し相対的に弱化を起こす。主動作筋と拮抗筋の間でこのマッスルインバランスが起こると姿勢アライメントや運動パターンの異常を起こす。

     またCookは関節を可動性関節と安定性関節に分類している。それらは交互に連結しており,相互に影響を与える。人の運動は硬い関節よりもより柔らかい関節で動きが起こりやすく1つの関節に可動域制限が起こると他の関節で代償運動が起こる。

     可動性関節が可動域制限を起こすと隣接する安定性関節に代償運動をおこし,その安定性を壊す結果になる。例えば,可動性関節である股関節の動きが制限されると,隣接する安定性関節である腰椎,膝関節の安定性を壊し痛みの原因になる。このように関節の不安定性の原因は,隣接する可動性関節の機能障害が原因である場合があり,関節と関節の相互作用を考慮したアプローチが必要である。

     

    機能的運動療法

     マッスルインバランスや関節のインバランスは筋力テストや関節可動域テストを中心とした評価法では問題点がとらえにくい。姿勢アライメント,運動パターンの評価や筋の長さテストを中心とした評価を取り入れることにより運動の量だけではなく質の評価を行うことができる。過緊張筋の抑制,弱化筋の活性化,関節の安定化,運動パターン修正エクササイズを組み合わせた機能的運動療法について症例を提示し検討したい。

  • 岩田 憲
    セッションID: A-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     2003年にGanzらによって提唱されたFemoro-acetabular impingement(以下FAI)が,従来は一次性変形性股関節症と考えられていた欧米の変形性股関節症の原因の一つと考えられるようになった。そのためFAIに対する治療が発展し,より低侵襲化し鏡視下手術が普及するきっかけともなっている。いっぽう本邦における変形性股関節症の原因のほとんどが発育性股関節形成不全(Developmental dysplastic hip:DDH)であるため,軽度の臼蓋形成不全の患者においてはその症状がDDHによるものかFAIによるのか判別が難しく混乱を招く状態となった。そこで日本股関節学会は2015年にFAIの診断指針を発表した。これによると

    画像所見

    ・CE角25度以上

    ・Pincer typeのインピンジメントを示唆する所見

     ① CE角40°以上

     ② CE角30°以上かつ ARO0°以下

     ③ CE角25°以上かつ Cross over sign 陽性・Cam typeのインピンジメントを示唆する所見

     主項目:α angle(55°以上)

     副項目:Head-neck offset(8mm未満),Pistol grip deformity,Herniation pit(主項目を含む2項目以上の所見を要する)

    身体所見

    ・インピンジメントテスト陽性

    ・Patrickテスト(FABERテスト)陽性

    ・股関節屈曲内旋角度の低下

    これらを満たす症例をFAIと診断し適切な治療を行うよう指針が示された。そこで本講演では実際の症例を交え診断と治療について解説していきたい。

     いっぽうDDHに対する関節温存手術も手術支援ナビゲーションの普及とともに改善されつつある。従来関節温存のための骨切り術の成績は,術者の経験と技量に大きな影響を受けていたが,ナビゲーションシステムの使用により経験の少ない術者でも正確な骨切りが行えるようになり安定した手術成績が見込まれるようになってきた。我々の施設では2017年からCTベースのナビゲーションによる寛骨臼回転骨切り術を行っているが,ナビゲーション導入後の方がより骨切り術後の骨頭の内方化などにばらつきが少なくなった。本講演では実際の症例を交え最新の治療法について解説していきたい。

     近年minimally invasive surgery(以下MIS)の概念が股関節外科領域にも浸透しTHAにおいても様々な手技やアプローチ方法などがMISとして推奨されてきた。我々の施設においてもMISであるDirect anterior approach(DAA)を用いたTHAを行っている。DAAは従来行ってきたposterior approachと比べその侵襲の低さや合併症の少なさが際立っている。本講演ではいわゆるmuscle sparingと言われるDAAの筋組織への侵襲の少なさがどのように有用であるかを実際の症例を交えて講演していきたい。

     従来DDHによる股関節症は若年や青壮年期から発症することが多かったが,高齢化社会の伸展に伴い,近年は高齢発症の股関節症が目立つようになってきた。その一因として腰椎後弯変形に伴う臼蓋前方の被覆不良による変形性股関節症や軟骨下骨脆弱性骨折が考えられている。本講演ではこれらについても解説していきたい。

  • 野田 知之
    セッションID: A-67
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     代表的な運動器外傷ともいえる骨折の治療は,整形外科医が担う重要な役割の一つであり全整形外科手術の5-6割を占めると言われている。また人口の高齢化に伴って以前では考えられなかった高度骨粗鬆症例や超高齢者を治療する機会も増加してきている。このような症例に発生する骨折を脆弱性骨折と呼ぶが,さまざまな部位の脆弱性骨折の著しい増加が今後も予想される中,近年の骨折内固定の手術法ならびにインプラントの発展にもめざましいものがあり,従来の骨折治療の概念は大きく変革してきている。本講演では本邦の骨折の問題点と骨粗鬆症治療の重要性について述べ,代表的な内固定インプラントである髄内釘とプレートそれぞれにおける最近の進歩や話題について紹介し,リハビリテーションにおける注意点についても解説する。

     髄内釘は横止め位置や方向,本数の改良に伴って,骨幹端さらには関節内骨折の一部にまでその適応が拡大されてきている。手術手技としては適応拡大に伴って髄内釘を正しいアライメントに挿入するための様々な工夫やテクニックが開発された。これら手技の実際とさらには第4世代とも言われる最新の髄内釘も紹介する。

     プレートにおける近年最大のトピックはロッキングプレートの導入であり,これは従来のプレート骨接合の概念を一新させた。脆弱性骨折,粉砕骨折に対しても良好な初期固定性と高いアライメント維持能力を示し,MIPO法に代表される小侵襲手技の進歩と相まって,以前とは比較にならない程の低侵襲手術が実現されるようになってきた。

     しかしながらこれら革新的インプラントの概念ならびに手術手技の急激な進歩に対する知識不足や誤った使用法による合併症も散見され始め,治療サイドもこれらの知識やピットフォールを理解する必要がある。

     最後に骨折治療における早期リハビリテーションの重要性,ならびに運動器の障害のため要介護になる危険の高い状態とされるロコモティブシンドロームの予防について解説する。

  • ~術後の癒着や筋の過緊張が引き起こす股関節運動制限~
    田舎中 真由美
    セッションID: A-68
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     近年,骨盤底筋群が腹横筋,横隔膜,多裂筋と共同して活動し,体幹の安定性に関与すると報告されたことにより,骨盤底筋群に対するアプローチが尿失禁や骨盤臓器脱等の骨盤底機能障害だけでなく,腰痛症などの運動器症状に対しても用いられるようになってきている。骨盤底筋群は四肢の関節に存在する筋群と同様に骨格筋である。特に腰痛-骨盤-股関節に運動器症状がある場合は,骨盤底筋群の筋力だけでなく,左右の筋緊張や柔軟性及び骨盤底筋群に連結する筋膜も考慮する必要がある。

     筆者は臨床上,尿失禁や過活動膀胱を主訴として来所する症例の中に,下腹部から股関節に繋がる筋膜の問題により可動制限と疼痛をきたしている症例に遭遇することがある。一方,変形性股関節症で尿失禁を併発している症例も珍しくはない。これは下腹部から骨盤底筋群,股関節周囲筋への筋膜連結のいずれかに部分的な軟部組織の癒着や筋の過緊張が関連していると考える。

     下腹部から骨盤底筋群への連結は,下腹部の浅腹筋膜は2層あり,深層のスカルパ筋膜は,外陰部・会陰部の浅筋膜へつながる。この筋膜は,泌尿生殖部の皮下組織の膜で,尿生殖隔膜の縁に付着し,側方では坐骨枝と恥骨下肢に付着する。更に骨盤底筋群と股関節周囲筋群は表層と深層で連結している。一つは浅層の尿生殖隔膜と内転筋群で,もう一つは深層の骨盤隔膜に存在する腸骨尾骨筋と股関節外旋筋である内閉鎖筋である。このように下腹部と骨盤底筋群,股関節周囲筋は表層と深層の両者で深く連結している。

     例えば開腹術後症例において,術創部の硬さや筋膜の硬さに左右差がある場合,硬い術創部を有する腹部は,腹式呼吸時に動きが乏しくなり,それに応じて骨盤底部の動きも低下し,下方へ連結する股関節の可動性も低下していることが多い。腹直筋離開により腹部の浅筋膜の滑走不全があり,重積箇所に圧痛を生じている場合も,股関節の屈曲の可動性低下を呈す。

     また股関節屈曲時の疼痛や運動制限を有す症例は,slump姿勢で姿勢制御を行っていることが多い。この場合,骨盤底筋群の中でも後方部の尾骨筋の過緊張が考えられる。尾骨筋の過緊張に明らかな左右差がある場合,更に股関節の屈曲の可動性低下をも引き起こしてしまう。

     従って,尿失禁などの排泄症状だけでなく,股関節痛や股関節の可動制限が生じている場合,浅腹筋膜の癒着や腹直筋離開による筋膜滑走不全,骨盤底筋群の過緊張が一つの因子となり,骨盤底筋群に連結する上下の筋膜に影響を与え,運動機能障害を呈していると考えられる。

     今回は,筆者が実施している運動器症状の評価:下腹部・骨盤底筋群・股関節周囲筋の筋膜連結と骨盤底筋群の筋力と柔軟性評価を,症例を通して紹介する。

  • 吉尾 雅春
    セッションID: A-69
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     ヒトは直立二足動物である。ヒトは重力との関わりのなかで特有の姿勢調節能力を獲得してきた。直立二足動物であることを決定づけるものが,全荷重を担う足底の機能と股関節の動的支持機構である。立位で足部から受けた刺激は股関節を通じて骨盤を固定し,骨盤は体幹を受け止め,上体への情報源になる。骨盤はほとんどの姿勢で運動の要として存在し,その安定性は股関節の動的な支持機構に由来している。その股関節を構成する半球状の大腿骨頭と臼蓋の表面には濡れた氷よりも低い摩擦係数を持つ関節軟骨で被われている。つまり股関節はツルツルの状態で骨盤と体幹を支えている。そこには精巧な動的支持機構がなければ,歩行をはじめとする動作時の姿勢保持は困難を極めることになる。

     股関節における後方への安定性に寄与している大腰筋は赤筋線維が約50%を占める抗重力筋である。股関節を伸展すると,大腿骨頭は臼蓋から徐々に前方にはみ出してくる。立脚中期では突出した大腿骨頭が伸張された大腰筋腱を圧迫し,大腰筋の収縮を賦活する。その大腰筋の作用で体幹が後方に倒れないようにするautomaticな抗重力姿勢保持システムが成立する。さらに立脚後期では股関節の伸展の増加に伴って大腿骨頭と大腰筋腱との間で生じる圧は増し,大腰筋の活動を促して片脚支持期の体幹の抗重力姿勢を作る。残念ながら倫理上,大腰筋の筋電図を確認することは許されないが,解剖学的実験ではそのことをイメージすることができる。

     立脚中期から両脚支持期へと移行し,荷重の大半が前脚に移行した踵離地期になると,立脚後期にかけて蓄えられた大腰筋のエネルギーは大腿骨頭を後方に押しながら小転子に作用し,膝を前方に向けて振り出す力になる。ここでも股関節と膝関節に存在する関節軟骨の摩擦係数が意味を持つと考えられる。定常歩行では随意的よりも概ねautomaticなシステムで下肢の振出しを行っている。さらに遊脚相では臼蓋に対して大腿骨頭を引き付けておく力源としても大腰筋は存在している。

     感覚情報は運動の開始や調節に重要であり,脊髄に投射する体性感覚情報は脊髄反射を誘発する。また,股関節への荷重と筋紡錘の伸張刺激は脊髄小脳神経回路を介して末梢の筋活動の賦活とともに,橋網様体脊髄路への賦活によって股関節・体幹を中心とした姿勢制御に貢献している。特に同側のTh1~L2の非陳述性感覚情報を伝える後脊髄小脳路の働きはその制御に重要である。その髄節の中心的存在は大腰筋であり,股関節の伸展を伴う荷重,すなわち立脚中期から後期の積極的な運動が直立二足動物としてのヒトの姿勢制御に意味を持つと考えられる。

トピック講演
  • ~装着型機器Trunk Solution®とTS-MYOの開発~
    勝平 純司
    セッションID: A-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     リハビリテーションの技術は進歩しているが,リハビリテーションに使うことができる用具は限られている。例えば歩行練習に必須の機器としては平行棒,座位保持や立ち上がり,座りなどの練習ではプラットフォームなど,以前から使用されている用具が長年使用されている。ロボットなどの最新のリハビリテーション機器を導入している病院も増えてきてるが,高価であるため多くの病院で使用されるには時間を要する。

     私はバイオメカニクス,人間工学の専門家として約17年間理学療法士の教育に携わってきた。社会人大学院生やセミナーや学会等で知り合った理学療法士の方々から臨床で必要とされる機器について多くのヒントを得ることができた。まず着目したのは「体幹」に対してアプローチをする機器の開発であった。理学療法士の多くが体幹へのアプローチの重要性を認識しているものの,より効率的,効果的にアプローチする機器は存在していなかった。Trunk Solution®(以下TS)は胸部に継手による抗力を与えつつ,機械的に骨盤を前傾させることで良姿勢を保持しつつ,腹部のインナーマッスルを賦活化させることを目的とした新しい装着型機器である。学術論文にて装着による効果のエビデンスが報告されている。超音波画像診断装置による評価により,装着することで腹横筋の筋厚が増加することがわかっている。また,三次元動作分析装置による評価から,高齢者の腹筋によるモーメントを増加させつつ背筋によるモーメントを軽減することができることや脳卒中片麻痺者等の歩行パフォーマンスを改善させる効果があることが示されている。価格もロボットに比べると安価であることから,多くの回復期リハビリテーション病院,整形クリニック,デイサービス,デイケアなどで導入され,学会発表等での報告も増えている。

     また,理学療法士が常備している測定機器はストップウォッチとゴニオメーター等の簡便な機器が多く,視診に頼らざるを得ないケースが多い現状である。モーションキャプチャーや筋電計など高価な評価機器を備えている病院もあるが,費用対効果の面からすべての病院に普及させるというのは非常にハードルが高い。そこで,大手企業の協力を得て高精度かつ安価で計測が可能な筋電センサーのTS-MYOの開発を試みた。TSMYOはiPadやiPhoneなどIOS11以上がインストールされている端末であれば,制限なく使用することができる画期的な機器である。他の筋電計と比べると安価であり,病院の消耗品として購入できる価格に抑えられている。アプリケーションについては無料で配布されている。2チャンネルまでしかつながらないという制限はあるものの,サンプリング周波数は1000Hzであり,フィルタリング処理やRMS等の解析を行うことができる。演者らはTSを理学療法士の第三の手の役割を果たす機器として,TS-MYOを筋活動の見える化を助ける第三の眼となる機器として普及を進め,本邦のリハビリテーションに変革をもたらし海外に発信していくことを目指している。

シンポジウム
  • 西上 智彦
    セッションID: A-71
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     臨床研究はより良い医療を国民に提供するために不可欠である。どれだけ基礎研究や健常者での研究で良好な結果が得られたとしても,臨床研究で明らかにされなければいけないことは多い。臨床研究は難しいとよく言われるが,確かに難しいものの,近年,本邦の理学療法士が実施した臨床研究の国際雑誌への掲載は増加している。臨床研究を行うにあたって,重要なことは,ある臨床での問題に対して解決しようとする強い意思があるかどうかである。

     研究のプロセスにおいて,研究計画,方法の検討,データ収集,データ解析,論文執筆,論文修正,資金の獲得などが必要である。従来,これを一人の臨床家,または,病院内スタッフで完結しようとしていた。修士課程や博士課程に在籍する者は一連の流れを経験する必要があるが,臨床家が高度なレベルですべてを実施することは困難であることが多い。そこで,協同研究することを提案する。例えば,研究計画,方法を臨床家と研究者で共に考え,臨床家がデータ収集,研究者が統計解析を実施,臨床家が論文執筆,研究者が論文修正,さらに,研究者が研究費を獲得するといった役割分担するといったものであり,現実的な方法である。

     協同研究するためには,研究仲間を作る必要がある。研究仲間の作り方は様々で,飲み会で知りあったり,学会発表時に声をかけたり,SNSでつながったり,講演で知りあったり,職場の同僚であったり,大学の後輩であったり,教え子であったり,ペインリハビリテーション学会の仲間であったりする。これらの仲間は研究室の縛りがないため,緩い結びつきではある。国際雑誌に掲載されるためには相当の努力が必要であり,共によく遊び,苦しむことが“学術と臨床を繋ぐ”ために不可欠であると考えている。

  • 工藤 慎太郎
    セッションID: A-72
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     理学療法研究は,理学療法に関わる人や社会の幸福に繋がることを目的としているはずである。しかし,論文が掲載されたものの,臨床が変わっていなかったとしても,インパクトファクターの高い論文に掲載されたら私は嬉しい。しかし,これでは学術と臨床が連携しているとは言えない。

     研究者は論文になったら,その論文を臨床家が検索して,読んで,使ってくれているという,理想的妄想をどこかで描いている。しかし残念ながら,ほとんどの臨床現場はそんな状態になっていない。臨床現場では単位数のノルマや書類仕事が多くあり,最新の論文を常に検索し,実践を試みているセラピストは残念ながら多くないと思われる。また,比較的若く,学術的な経験の浅いセラピストが自分より若いセラピストを教育しなくてはならない現状もある。多くの臨床現場では,臨床―教育―研究の3本柱は崩壊しつつあると言っても過言ではないであろう。つまり,研究者は臨床現場でのニーズを汲み取れず,臨床現場は研究に触れることすらほとんどないのが現状と認識している。

     また臨床現場で学術を進めたいと思っても,職場に学術活動の経験の充分なセラピストがいるとは限らない。そのため,せっかく頑張って研究しても,Neuesのわかりにくい研究やOriginalityの薄い研究になってしまうことも少なくない。そのため,研究(学術活動)の面白さを十分に感じられぬまま研究を辞めてしまうことも少なくない。

     私は現在,森ノ宮医療大学に勤務しながら,3つの医療法人で週末に臨床指導し,2つの医療機関と研究協力を行っている。私の研究室には臨床現場に出ている大学院生と研究員が多数在籍している。我々の基本的な研究進捗の枠組みは,研究室で大学院生と学部生が中心となって,臨床現場で再現可能な計測手法を確立して,健常者での標準値を明らかにした後,臨床において,大学院生と研究員が中心となって,臨床データを収集し,仮説を検証している。研究テーマは本人たちや私の臨床上の疑問から設定するため,必ず臨床において計測可能な手法とするように心掛けている。また,大学院生と研究員は2ヶ月に1度の頻度で,仕事終わりにウェブも用いてミーティングをしている。各自の研究の進捗状況を確認し,専門としている部位(膝,足など)や計測スキル(超音波や三次元動作解析など)を横断的にディスカッションし,教えあっている。学部で私の研究室に配属された学生はこのような環境で育っていくため,卒業後も臨床にて研究活動に尽力する者も増えてきている。また,卒業後に研究の重要性が分かり,研究方法を学び直したいという卒業生に対しては,森ノ宮医療大学卒後教育センター(MorSPEC)での研究支援セミナーを開催し,研究のアドバイスや指導を行っている。MorSPECでは卒業生を含めた医療従事者の卒後教育を実践しており,臨床現場と大学院とのパイプ役も担っている。

     科学的根拠に基づいた理学療法の実践には,理学療法の理論的背景の解明と治療効果の証明が必要になる。前者は研究者の努力で少しずつ進歩していくが,後者は臨床家の協力が必須である。そのための環境整備として,研究室を開いて,臨床家と問題を共有すること,卒前から卒後へのシームレスな教育体制の整備が必要になる。そして,それらを可能にするためにも,理学療法の面白さを広めていける臨床力を研究者は持つ必要がある。治せないセラピストの研究には臨床家は魅力を感じないのではないだろうか?

  • 小澤 淳也
    セッションID: A-73
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     本学会のテーマ「学術と臨床の連携」という言葉から,トランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)が先ず思い浮かぶのではないだろうか。トランスレーショナル・リサーチとは,医療シーズ(治療候補の探索)としての基礎研究の成果を,新しい診断や医療機器や医薬品などの治療に繋げることを目的に行う研究である。我が国が推進しているトランスレーショナル・リサーチとは,創薬や医療機器など,アカデミアと産業界が繋がることを目標としたものであり,基礎研究と理学療法の臨床との懸け橋となる研究とはややイメージが異なる。理学療法分野では,評価や治療の技術・提供方法などに直接影響を与える研究といえよう。アカデミアに所属し,研究を生業とするものにとっては,掲載された論文の数や雑誌の評価のほうが関心は高いかもしれない。しかし,実験室から生まれた研究データが,結果的に理学療法の臨床現場に届き,治療や患者を変えることを想像するだけでワクワクするし,社会に及ぼす影響は大きい。

     動物実験では,ヒトでは困難な組織採取や投薬が出来るほか,臨床研究で問題となる交絡因子を除去することが出来るというメリットがある。我々の研究グループは長年,運動器,特に関節組織を研究対象として動物実験を行ってきた。その中で,関節拘縮と炎症との関係を,ある程度包括的に解明するに至る一定の成果を得た。本講演では,関節拘縮の誘発・増悪因子について,また拘縮回復過程の自然経過や運動や物理療法の効果についての我々の研究内容を紹介するとともに,今後の臨床応用の道筋を提案したい。

     臨床では,症例の中から「現象」を捉え,その中の共通した傾向から「事実」を見出す。「事実」の蓄積から「概念(コンセプト)」が生まれ,「理論(セオリー)」が形成される。運動器の理学療法の近年の発展は著しく,様々な治療概念や理論が提唱されているが,実験的仮説検証が行われていない概念や理論も少なくない。理学療法の特性上,致し方ないところではあるが,この概念形成における「ミッシングリンク」の解明には学術的意義があるだけでなく,新規の治療に繋がるヒントが隠されている。

     本学会は,臨床研究と同様に基礎研究にも理解を示し,発表の機会を与えてくれることに敬意の念と感謝を申し上げたい。今後もこの方針を継続し,本学会が学術と臨床とを繋ぐ場として大きな役割を果たしてくれることを切に願っている。

  • 嶋田 誠一郎
    セッションID: A-74
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     私は大学病院に勤めて35年になる理学療法士である。そのあいだ,大学は統合や法人化により名称の変遷を遂げてきたが,長きにわたって同じ職場で勤務してきた比較的稀有で定点カメラのような理学療法士だと自己認識している。

     35年前,今と全く変わらない600床のベッドを有しながら,入職時の理学療法士はたった2名で担当し,臨床また臨床の激務をこなしていたことを記憶している。一方で理学療法士の働き方も患者に対し1対1の診療を必ずしも要求されていなかったので,工夫次第で研究に携わる時間も確保でき,多い時には1日2時間をデータ採集に使えていた。また,診療業績は十分に稼いでいたので研究に使える機器も十分に購入してもらえた。更に大学病院の長所は,周りに優秀な医師や研究者が幾らでもいる事であり,ここに臨床と研究を進めてゆく好環境が整えられ,忙しいながらも少しずつながら成果を出すことが可能となり,理学療法士として臨床と研究の両立が当たり前という精神と環境の下で育てられてきた。

     昨今では臨床と研究を行う環境は急変している。国立大学法人である当院においても理学療法士の数は15名と大幅に増加したが入院患者の約3分の1の症例に対して何らかの形で臨床に関わらなくてはならず,また単位の取得に追われ,研究に費やす時間は取れなくなっている。一方で本邦の臨床の理学療法士は海外諸国と比較しても研究発表などを多く行ってきた実績があり,それは大いに評価できると思う。しかしながらそれに対するインテンシブはほとんどないのが現実である。

     臨床の形も大きく変わっている。医師の診療も治療方針の決定はカンファレンスによる合議性が定着し,多職種が参加するカンファレンスで退院などの方向性を決定することも増えてきている。理学療法においても当院では神経・運動器・内部のチーム制が定着し,従来の療法士個人が治療の方向性を担っていた時代から,リハビリテーション医を含めたチームで治療方針を決定する時代へと様変わりしている。主治医や看護師とカンファレンスやコミュニケーションを取ることが増えた中で,用語の共通語化などが進んでいる。

     学術と臨床の連携を強めてゆくのに必要なことは,まず現場で臨床家と臨床家が繋がることであると思う。また,他職種とも繋がることも必須であると思う。その上で臨床と学術(教育・研究)の繋がりが発展してゆくことが望ましいと思う。

  • 大丸 利沙
    セッションID: A-75
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     私の所属する鳥取県中部医師会立三朝温泉病院は,「安心・安全で良質な医療を提供し,常に地域から信頼される病院」を理念とし地域住民の健康増進に関わる活動に力を入れている。病院のある鳥取県東伯郡三朝町は鳥取県中部の山間地に位置し,人口約6500人,高齢化率36.2%,年間出生数25人(平成30年度)といわゆる過疎高齢化地である。その中で,平成27年3月より町の子育て支援事業(三朝町版ネウボラ=妊娠期から就学前までの切れ目ない子育て支援)の一環として,産前産後女性に対し理学療法士の専門性を活かした関わりを行っている。

     具体的には産前から産後にかけて4つの活動があり,事業を始めた時系列に沿って以下に示す。

    ・平成27年3月~ 町の開催する産前教室での講話と集団体操【名称:ウェルカムBaby教室】

     (内容) 妊娠後期の妊婦を対象にマイナートラブルの対処法や産後ケアの必要性についての講話を行い,妊娠後期に実施可能な腰痛予防体操や骨盤底筋体操を指導する

    ・平成27年10月~6ヵ月健診での母親の体調についての相談事業【名称:6ヵ月健診】

     (内容) 6ヵ月健診に参加した母親を対象に現在の体調について個別相談(症状に合わせた体操・育児動作指導,抱っこ紐の調整など)を受ける

    ・平成29年6月~ 産後に病院で受ける産後ケア【名称:産後ケア健診】

     (内容) 保健師による新生児訪問が終了した母親を対象に,自己負担金1000円で当院の整形外科医による診察と理学療法を提供する

    ・平成30年6月~ 赤ちゃん教室での集団体操【名称:ねんねクラス】

     (内容) 子育て支援センターで開催される1歳までの赤ちゃんと母親が対象となる子育て教室で産後の腰痛や肩こりなどの症状を改善するための体操を指導する

     平成27年開始当初は勤務時間内に個人で時間休を取得し,ボランティア活動として関わっていた。平成29年度より三朝町の委託事業として活動できるようになり,産後ケア健診事業が始まったことを機にリハビリテーション科内でウィメンズヘルス理学療法に興味をもつ者で【ウィメンズヘルスチーム】を結成した。この時点では産後ケア健診の対応は私が主となり行っていたが,7月に自身の第2子妊娠が分かり,急速にチーム全体の知識や技術力の向上を図る必要に迫られた。具体策として産後ケア健診の対応を2名体制とし,問診・評価の流れや実際の治療を一緒に経験し,月一回のミーティングでは症例検討を行った。また,各個人が研修に赴き,チーム内での共有を図った。平成30年度より全事業をチームで分担できるようになったが,産後ケア健診の受診率の低さや健診時に指導した運動が継続されていない事,町外在住の産後女性のニーズへの対応などの課題は残っている。

     病院内・外を問わず,産前産後に関わる理学療法士が増えている一方で,日本における産前産後リハビリテーションに関するデータは少ない。今回は,三朝町6ヵ月健診における母親の体調に関する相談事業および当院で行っている産後ケア健診のデータから分かる産後女性の理学療法ニーズについて報告する。

  • 武田 要
    セッションID: A-76
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     妊娠-出産は女性にとってライフイベントであると共に,筋骨格系や循環器系,内分泌系等を含めた一時的な身体変化が現れる。運動面では胎児の成長に伴う重心位置の変位やアライメントの変化のため,運動パターンの変化や姿勢制御能力低下がみられるようになる。

     歩行では歩行速度,歩幅,骨盤回旋量が減少し,反対に骨盤の前傾角度,歩隔が増加し,体幹後屈位となると報告されている。同様に立ち上がりや着座動作においては,妊娠に伴う腹部膨大による体幹前屈制限があるため床反力作用点は後方に位置した状態のまま立ち上がらなければならず,膝伸展筋活動を意味する膝伸展モーメントが増加する。中田らの調査では,マイナートラブルを抱えている妊婦は妊娠初期から『思うように動けない』,『思うように歩行ができない』,『階段昇降が困難』といった動作,移動に関する困難さを感じていることを報告している。

     姿勢制御に目を向けると重心動揺計を用いた姿勢制御能力の分析では,妊娠が経過するにつれて前後方向と放射線状方向への動揺が増加すると報告されている。筆者らは,安定性限界での姿勢制御が求められる場面があることから,妊娠経過に伴う安定性限界での姿勢制御について検討した。妊娠末期では,前方矩形面積が増大し,動的バランス能力を示すIndex of postural stabilityの値が有意に低下していた。前方矩形面積の増大は,妊娠経過に伴い前方に対しての姿勢制御能力が低下していることが示唆される。米国での調査や日本での調査では,およそ25%の妊婦が妊娠中に転倒を経験していると報告され,Qichangらの報告では,立脚期中の足部でのCOPの軌跡を計測し,特に妊娠末期における転倒リスクが増加することが示されている。

     産後に目を向けると日常生活での育児行為として,抱っこや授乳動作があげられる。抱っこや授乳は,健全な発育を促すだけでなく幼児にとって落ち着きを与える行為でもある。一方で産褥期における母親の身体的疲労認知は強く,この時期での母親にとっての抱っこは,同じような姿勢を長時間にわたり保持する必要があり,上肢や腰背部筋群の筋疲労といった負担がかかりやすいものと考える。実際,寅嶋らの調査では,この時期での母親の肩こりや腰痛状況は,過重労働者等の身体的健康問題と類似していたと報告している。加えて奥山らの調査では,産後に腱鞘炎症状を有している母親が24%であり初産の割合が有意に高かったと報告しており,不慣れな抱き方を長時間行うことにより腱鞘炎になっていたことが予想される。玉上らは初産婦の育児での心配事として「抱き方」の訴えが多かったと報告している。産後1ヵ月の母親の80%以上の者が睡眠不足,肩こり,腰痛の身体症状があるという報告があるように,産後での身体症状への介入と共に,身体に負担のかかりにくい抱っこや授乳方法を指導,検討する必要性があると考える。

     このように妊娠期から産褥期においては,日常生活に影響を与える身体変化がみられ,産後での身体トラブルにつながり日常生活に支障をきたす可能性がある。成熟期から更年期,高齢期での充実した日常を送る上でも妊娠期から産褥期での身体のケア,指導は不可欠であると考える。多職種との連帯だけでなく,理学療法士自身のこの領域における知識と客観的データの蓄積が早急に望まれる。

  • ―臨床研究の課題と展望―
    浅田 啓嗣
    セッションID: A-77
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     現在の臨床研究の方向を決定づけたきっかけとなったのは,EBM宣言と呼ばれる1992年のGuyattらによる論文「Evidence-based medicine:A new approach to teaching the practice of medicine」である。この宣言の冒頭において,根拠に基づいた医学は,系統的ではない臨床経験,病態生理学的合理付けを臨床判断の十分な基本的根拠として重要視せず,臨床研究における根拠の検証を重要視すると述べられている。

     本邦における徒手的療法(manual therapy)の効果に関する臨床研究は非常に少ないことは言うに及ばず,国際的な系統的レビューにおいても,運動器疾患に対する徒手的療法は疼痛に著しい短期的効果を示すが,身体障害,機能,医療費,および生活の質に対する長期的効果は依然として疑問の余地があることを示唆している。現代の医療において我々のスキルは不要なのだろうか? 海外のような職業上の地位や待遇が得られない運動器徒手理学療法認定士という称号は意味を成さないものなのだろうか?

     今一度,徒手的療法と徒手理学療法(manipulative physical therapy)を整理して考える必要がある。徒手的療法は立位・歩行練習のような運動学習を伴わず,筋力増強運動や関節可動域増大運動などの運動療法の目的をもたない他動的な手技による治療と理解されている。多くの研究では患者の症状に関係なく,一定の手順に従った徒手的療法の効果が検証されてきた。しかしながら,理学療法士が行う徒手的療法は筋骨格系の状態を改善し,運動を円滑に行えるように支援するものであり,痛みのない機能的運動を促進するための介入である。運動療法との組み合わせで,より良い効果を生み出す可能性を有し,その総合的な治療は「徒手理学療法」と呼ばれるようになっている。つまり,筋骨格系障害の治療は徒手的療法から始まることが多いが,機能の変化や改善に合わせて,運動システムのあらゆる側面に対処していく必要があり,徒手的療法を含んだ複合的な介入の効果とその対象を明確化していくことが,今後の課題である。

     最近では,個々の患者の臨床症状に基づいて徒手的療法の種類と量を選択する実用的なアプローチによる研究が行われている。これは多くの交絡因子を生み出し,研究の内的妥当性を低下させるかもしれない。その一方で外的妥当性および一般化可能性を高めることに繋がるだろう。徒手理学療法の効果を証明していくために,学術機関と臨床現場の連携とを強め実用的な臨床データの蓄積・分析を進めていく必要がある。

     日本理学療法士学会徒手理学療法部門では,運動器疼痛疾患を対象とした徒手理学療法の効果に関する研究プロジェクトを2015年より立ち上げた。2016年より多くの施設の協力の下で予備的調査を進め,これまでの理学療法士学会学術大会で報告してきた。臨床研究に関する問題点を踏まえ,2018年度からは変形性膝関節症・脊柱菅狭窄症に対してClinical Prediction Rule作成を目的とした多施設共同研究を開始している。本シンポジウムではその研究概要について紹介しながら,臨床研究の課題と展望について議論したい。

  • ~腰部脊柱管狭窄症に対する理学療法の効果検証~
    公森 隆夫
    セッションID: A-78
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     急速な高齢化にともない加齢変性疾患の増加が予想され,理学療法士の高齢者へのヘルスマネージメントが重要となる。その中で腰部脊柱管狭窄症は60歳以上に多く見られる疾患で,椎間板や椎間関節の変性や脊椎すべり症によって脊柱管を狭窄することにより特徴的な症状が起こる。脊柱管狭窄症に対する理学療法効果に関する無作為対照化試験により,ストレッチやトレッドミル歩行などの運動療法と徒手理学療法を組み合わせた介入において短期間の下肢痛や殿部痛改善に効果があったことが示されている(Whitmanら,2006年)。しかし理学療法による介入の効果が認められる一方で,症状の悪化や手術療法に移行する重度患者も存在し治療が長期化する例も少なくない。適切な介入のためには,症状により患者を層別化し状況にあった介入を行っていく必要がある。

     徒手理学療法部門では日本理学療法士協会の協力のもと,2016年度から徒手理学療法の効果を明らかにすることを目的とした研究を進めてきた。2018年度からは脊柱管狭窄症への短期的な介入効果におけるクリニカルプレディクションルール開発を目的とした多施設共同研究を行っている。

     研究を進めるうえでの問題点として腰部脊柱管狭窄症の診断が困難であることが挙げられる。日本整形外科学会診療ガイドライン委員会編集の腰部脊柱管狭窄症ガイドライン2011による腰部脊柱管狭窄症の診断基準は,1.殿部から下肢の疼痛やしびれを有する,2.殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増強し,前屈や座位保持で軽快する,3.歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する,4.MRIなどの画像診断で脊柱管や椎間孔の変性狭窄状態が確認され,臨床所見を説明できる,の4つをすべて満たすことと設定している。そのため診断にはMRIやCTが必要となるが,腰部脊柱管狭窄症の保存的治療を行う施設の多くはクリニックであり,ガイドラインの診断基準では対象を特定出来ないという問題点があった。これに関してはSugiokaらの基準を採用している。年齢,罹患期間,前屈と後屈動作での症状の変化,立位姿勢での症状の有無,間欠性跛行,尿失禁などの項目で点数化し7点以上を基準としている。

     本講演では,以上のような臨床的問題点を考慮すると共に,脊柱管狭窄症に対する徒手理学療法のエビデンス構築の新たな取り組みを紹介する。

ヤングセミナー
  • 加藤 邦大
    セッションID: A-79
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     日頃から運動器疾患を診ることの多い理学療法士の先生方にとって腰痛は避けて通れない疾患の一つだと思います。椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症など医師からはっきり診断されている方から,画像上は問題ない,あるいは大したことのない,いわゆる非特異性腰痛の方まで様々です。

     診断名がはっきりしていて,理学所見と合致している場合(ヘルニアによる神経症状がある,狭窄症による間欠性跛行があるなど)は,理学療法の治療方針は病態を考慮して立案されます。症例によっては医師による外科的処置を必要とすることもあります。

     しかし,診断がされていても理学所見と合致していない場合(ヘルニアはあるが,神経症状はない,狭窄症だが屈曲時に疼痛があるなど)や,はっきりした器質的問題(病態)もなく,受傷機転もはっきりしない非特異性腰痛の場合,その診断名だけでは理学療法の治療方針を立てることが出来ません。

     そんな時に皆さんはどうしますか?

    Sahrmann1).2)は,ヒトを諸要素から構成される一つのシステム「運動系」として捉え,各構成要素がそれぞれ相互作用的に運動に関与しており,その運動によって病理的な異常(病態)が引き起こされるという運動病理学的モデルという考え方を提唱しています。これは普段,習慣的にとっている姿勢(持続姿勢)や繰り返し行っている動作(反復動作)によって神経系,骨格系,筋系に様々な組織適応が引き起こされ,その結果,相対的柔軟性が関節間(例:腰椎VS股関節)や関節内(例:滑りVS転がり)に生じ,あらゆる活動において特定方向へ動きやすい傾向(Directional susceptibility to movement:DSM)を招きます。このDSMによって運動(生理学的な運動や副運動)の頻度は増し,易運動性の発展に貢献することで組織の微小外傷を生じ,最終的には可視的外傷を引き起こすという考え方です。我々理学療法士は,腰痛に悩む患者さんの姿勢,運動パターン(持続姿勢や反復動作)の分析から制御すべき運動方向つまりDSMを特定し,標準的検査(筋長検査,徒手筋力検査など)からその関与因子(組織適応や相対的柔軟性と硬さ)を明らかにすることで自ずと理学療法の治療方針を立案することができます。

     今回のセミナーでは,MSIコンセプトの根幹である運動病理学的モデルについて説明するとともに,DSMをどのように見出すのか? また見出されたDSMをどのようにマネジメントしていくのか?について皆さんと考えてみたいと思います。

  • ―OMPTの立場から―
    松村 将司
    セッションID: A-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     腰痛を一度も経験したことがないという人は少ないのではないだろうか。平成28年の国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)においても,腰痛は有訴者率で男性の1位,女性の2位となっている。臨床場面においても,腰痛を主訴として来院する方は多く,また,他部位を主訴として来院しても,腰痛を併発している方は少なくない。また,最近では一般的に知られることとなっているが,医師の診察や画像所見により病態が明確化できる特異的腰痛は,プライマリケアにおいて約15%であり,約85%は原因が明らかにできない非特異的腰痛と言われている。

     しかしながら,理学療法士は腰痛を有する患者に対応している。つまり,原因が明らかにできない非特異的腰痛を評価し治療しているはずである。この時点で非特異的腰痛は理学療法士の評価により,“非”特異的腰痛ではなくなっているのではないだろうか。現在,非特異的腰痛に対しては症状や状態に応じてclassificationを実施し,それぞれの分類に対してアプローチしていく手法も取られている。当然,この中には運動を主体としたものも含まれている。また,心理社会的要因も考慮され,患者の持つ思考や信念,とりまく環境なども把握しておく必要があると言われている。

     このように非特異的腰痛に対しては未だ完全なコンセンサスが得られた方法はない状況であることを理解したうえで,整形徒手理学療法士(OMPT)の立場から非特異的腰痛に対する評価と治療について概説する。

     最初に行う問診は徒手理学療法の中でも重要な部分を占め,現病歴(受傷機転や発症からの経過も含めて),疼痛部位,悪化要因,軽減要因など多岐に渡って確認する。中でも,悪化要因と軽減要因を明確にすることが,原因を特定するためにも重要である。問診の段階で,原因となる領域や組織,問題は関節の過可動性(hypermobility)なのか低可動性(hypomobility)なのかなど,最初の仮説を立て,続く客観的評価で検証していく。

     客観的評価として,視診によって静的・動的アライメントを確認する。特に本人が症状を訴える動作については注意深く実施する。動作を確認し症状の出現する状況を明確にした後,機能的運動テストとして,関係する関節の自動・他動運動を確認し,どの運動のどの位置で症状が出現,増悪するのかを見極め,症状が再現される動きを確認する。さらに,症状局在テストによって,どの部位(分節)が原因であるのかを鑑別する。

     そして,関節副運動(joint play)テスト,筋の長さテスト,スパズム,圧痛などの確認も行う。医学的所見や禁忌の確認まで終了した段階で,得られた評価結果から,症状の発生機序と原因組織を検討する。

     以上の評価から得られた結果に基づき,治療を実施していく。基本的には低可動性の部位に対しては軟部組織・関節モビライゼーションを実施し,過可動性の部位に対してはstabilization exerciseを実施する。日常生活において症状を悪化する恐れのある動作については修正し,注意する点や自宅でできる運動を伝える。

     このように非特異的腰痛の評価では,全身をみることに加え,分節の可動性など局所的な評価や治療が実践できることも重要である。そのためには知識だけではなく,技術的なトレーニングも必須であり,様々な手段・方法があることを理解した上で,理学療法士は自己研鑽しなければならないと考える。

  • 森 健太郎
    セッションID: A-81
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     私がヤンダアプローチと出会ったのは,まだ理学療法士として働き始めて間もない頃である。Janda博士の功績は私が述べることは不可能であるがCraig Liebensonはこう述べている。筋骨格系のヘルスケアに対する彼の貢献は計り知れない。彼はいかに筋の強さや弱さを見抜くか,また安定性を維持するための身体の彎曲をいかに識別するかという事に関して,われわれの概念を覆したと。2002年にヤンダ博士はこの世を去ったが多くの書籍で彼の名前は見受けることができ,研究者のみならず世界の臨床家に今なお影響を与えている。以下にヤンダアプローチの主要な概念であるマッスルインバランスについて紹介する。

     Jandaによると,マッスルインバランスとはいくつかの筋が抑制され弱化(相動性システムの筋群)し,一方では他の筋が過剰活動にある状態(緊張性システムの筋群)をさす。ハムストリングスや僧帽筋上部などの過活動,もしくは殿筋群や腹筋群などの弱化傾向が代表的である。筋の過活動や弱化は無作為には生じず,むしろ典型的な「マッスルインバランス・パターン」として説明されている。例として,近位交差症候群は胸鎖乳突筋や後頭下筋,僧帽筋上部,肩甲挙筋,大胸筋における過活動もしくは短縮の促進,そして同時に深層頸部屈筋や下位肩甲骨安定化筋の抑制による弱化によって特徴づけられたマッスルインバランス・パターンである。

     これらのインバランスのパターンは局所的,徴候的部位に限定されたままではなく,全身の他の運動部位に連鎖反応を促してしまう。また現代社会での活動は姿勢筋機能に過剰な負荷がかかる事が多く,静的過負荷と蓄積された微細損傷に伴い,可動性は減少し,強制された姿勢での動きは継続的に行われている。こういった生体力学的要素もマッスルインバランスを助長し誤った運動パターンに陥りやすくさせる。したがって,良質な姿勢・動きのための運動プログラムの改善が必要となる。

     Jandaは関節,筋,神経システムは機能的に統合されており,こういったマッスルインバンスに対するアプローチは感覚システムと運動システムの統合が前提であると述べている。

     これを踏まえ,臨床においてこのマッスルインバランス・パターンの評価は,歩行分析,筋緊張の観察を含む姿勢分析,運動パターンテスト,筋の長さテストにて行われ,筋のインバランスや運動パターンがどのように変化したかを把握し,短縮,過緊張,過活動となっている筋と弱化,抑制されている筋を見極めることによる。

     具体的には過活動の筋にはストレッチングや弛緩を図り,弱化,抑制されている筋には促通を図ることとなる。短縮,過活動,過緊張筋を弛緩させる目的は2つある。1つは可動域を改善し短縮筋の柔軟性を増加させることである。2つ目は主動筋を抑制している筋を弛緩させ,拮抗筋の過活動による抑制の影響を受けずに主動筋が活動できるようになることである。拮抗筋の弛緩と主動筋の増強はある動作の一連の流れを作る筋の活動を促す。例えば股関節伸展や外転の正しい筋活動パターンを再確立する。そのパターンは神経学的にも確立され,小脳にプログラム化されるよう導かれるべきである。

     このようなリハビリプログラムでの望ましい治療結果は,協調性のある筋活動パターンが得られることである。神経学的にも機械的にも抑制が認められず,筋のインバランスが見られなくなり,正常な筋機能が復活することである。

     今回,被特異性腰痛患者を上記のようなヤンダアプローチの視点から紐解き,そのアプローチの内容を述べたい。

  • 江原 弘之
    セッションID: A-82
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

     慢性痛は2019年に発表された,国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)に疾患の一つとして収載された。ICD-11において非特異的腰痛は,原因不明で心理社会的要因の影響が強い痛みとされる一次性慢性痛に分類された。推奨グレードが高いアプローチとして有酸素運動や認知行動療法が紹介されているが,非特異的腰痛の中でも痛覚過敏や疼痛領域の拡大や心理社会的要因の影響が少ない場合,運動器理学療法で改善することも多い。しかし,機能障害の把握は経験が少ない理学療法士に難しいため,指導に一定の「枠組み」が必要と考える。

     当院では医師と協働して初診時より理学療法士が介入し,診断に有益な情報を提供している。背臥位,腹臥位,側臥位,四つ這い,片膝立ち位等で発達運動学的に理想的な運動パターンを枠組みにして患者の運動パターンと比較する。枠組みから外れた,「エラーパターン」を表出させることにDNSアプローチを用いている。エラーパターンは運動に先行する脊柱のモーターコントロールと関節可動域制限等から生じるが,痛みの発生と関係が深い身体機能障害のクリニカルリーズニングに非常に有用と感じている。個別介入とホームエクササイズで構成されたsupervised exercise therapy(SET)は慢性腰痛に効果的であるが,ずり這いやハイハイなど乳児の運動に類似したDNSアプローチは患者と目標共有が行いやすく,自主トレを重視するSETとも親和性が高いところも大きなメリットである。

     本セッションでは多様なエラーパターンを呈した非特異的腰痛患者の典型例を示し,臨床的意見を述べる予定である。

  • ―臨床疑問から研究への発展―
    川端 悠士
    セッションID: A-83
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    1.臨床疑問の見つけ方

     臨床研究の本質的な意義は,臨床の現場から生まれた純粋な疑問を解き明かしていくことにある。したがって臨床場面でクライアントに直接的に接する理学療法士各々に,臨床疑問を解決する役割が課せられている。

     臨床研究は臨床疑問から始まるところに大きな意味があり,研究過程が臨床疑問から始まらないと,研究のための研究に終始してしまう。「研究はしたいけど研究のネタが見つからない」といった声も聞かれるが,臨床的意義のある臨床疑問を見つけるためにはいくつかのコツがある。まず臨床実践における意識を変えることが重要である。理学療法の分野には,まだまだ経験則で構築されたパラダイムが多く存在する。したがって臨床を実践する上では,常に疑問を持ちながら当たり前を当たり前と思わない姿勢が重要である。また単一症例研究と多標本実験計画法を用いた研究は別物であると考えられがちだが,単一症例を通じて意義のある臨床疑問を発見できることは少なくない。理学療法士として真摯に一例一例に対峙していくことこそが,臨床的に意義のある臨床疑問を発見するためには最も重要である。

    2.臨床疑問だけでは研究はできない

     せっかく臨床的に意義のある臨床疑問を見つけることができても,臨床疑問をそのまま研究へ結び付けることはできない。学会に参加すると,研究アイディアは非常に興味深いにもかかわらず,研究デザインや統計学的な解析方法が適切でない発表も見受けられる。臨床疑問を研究実践に結びつけるためには,臨床疑問を研究疑問へ構造化する作業が重要となる。臨床疑問を研究疑問へ構造化する際には,PECO/PICOといった形式で要約すると効率的である。また臨床疑問をPECO/PICOの形式で研究疑問へと構造化できたら,FIRM2NESSの法則を用いてさまざまな観点から研究疑問を吟味することも重要である。

    3.臨床研究実践による教育的意義

     臨床研究実践の意義は,真理を追究しその分野における科学的根拠を明らかにするといった本来の学術研究の意義にとどまるものではない。臨床研究の実践は専門職としてのスキルを高めることにもつながり,若手理学療法士が専門職として成長する上でも,臨床研究実践の果たす意義は大きい。臨床研究を行う上では,情報収集力・コミュニケーション能力・文書作成力・問題解決力・客観的分析力・論理的思考力・プレゼンテーション力等,様々なスキルが必要となる。臨床研究の実践は専門職として必要なスキルの学習にも繋がるため,若手理学療法士にも積極的に臨床研究に取り組んでいただきたい。

     本セミナーでは筆者自身が過去に取り組んだ研究を紹介しながら,臨床疑問を発見する視点,臨床疑問を研究疑問に発展させる過程,実際に研究を進めていくコツについて紹介する。

  • 佐伯 秀宣
    セッションID: A-84
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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    1.なぜ今になって症例報告が必要となるのか?

     エビデンスピラミッドにおいて症例報告の位置付けは決して高くない。しかし,近年の日本運動器理学療法学会では症例報告の重要性を説いている。「十分ではない臨床家の臨床データの蓄積から得られた研究結果は,優れた理学療法士の臨床像からかけ離れている」ことが背景にあると私は感じている。この差を埋めるために必要な手段の一つとして,学会での症例報告があると思う。一般的な症例報告と言えば,臨床で遭遇する機会の少ない稀な症例の報告であったり,新たな治療技術の効果を少数症例で検討した報告であったりする。しかし,現在必要な症例報告の形は「臨床上良く経験する症例に対し,臨床行為が適切に行えているのかを確認できるもの」であると考える。そして学会の場や症例検討会などで適切な議論がなされることで,優れた臨床家の育成ができると信じている。

    2.あるべき理学療法の姿

     理学療法は疾患・病態に対し直接治すことはできない。しかし,Aという疾患に対しaという治療技術を行うことが望ましいなど,飛躍しすぎた情報が散見される。完全に否定するつもりはないが,そこには必ず思考が入るべきであり,目の前の症例にaという治療技術が最適であるという保証を得るための評価は必ず必要であると考える。理学療法は運動機能障がいに対し,その運動機能の改善を齎すことが業であるため,本来ならばAという運動機能障がいに対しaという治療技術が推奨されるべきである。また,対症療法的な思考ではなく原因療法を主眼に置いた臨床思考がなされるべきである。

    3.臨床推論における思考過程

     近年臨床推論(クリニカル・リーズニング)が推奨されている。推論過程において問題の原因を絞り込むために知識・経験をもとに仮説を立案し,そしてその仮説が正しいのか検証作業を行う。多忙な臨床において仮説思考は時間の短縮に繋がり効率的な臨床展開が可能となるというメリットがある反面,使用方法を間違えると原因が複数存在している場合,他の問題を見逃してしまうリスクがあったり,経験に乏しい若手の理学療法士にとっては的を射た仮説の立案ができない場合も少なくない。そこで当院では,全ての問題の可能性を網羅的に立案し,全てを検証していく方法を取り入れている。時間を要するというデメリットはあるが,見逃しというリスクを軽減し,僅かな問題も抽出できるというメリットがある。また,網羅的に抽出するためにMECEの概念を利用したフレームワークの活用も有効である。

    4.症例報告から臨床研究へ発展させるために必要な臨床データの蓄積

     上述したように仮説思考のみでの臨床推論ではなく網羅思考を含めた臨床推論を推奨する。研究への発展のために疾患での分類ではなく,重症度分類,病気ステージ分類,姿勢分類,動作パターン分類なども明記しておくことが必要となる。また,臨床から得られる身体所見・症状の定義付け等も必要である。研究で使用するデータの検査測定があいまいなものであるならば,妥当性・信頼性のある検査測定技術の開発が必要となる。また検査者内信頼性・検査者間信頼性の向上も必要となる。本セミナーでは当院が実践している症例報告方法の一部を,そして臨床データの蓄積の方法の一部を紹介する。

  • 天野 徹哉
    セッションID: A-85
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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    1.客観的指標の必要性

     対象者の状態に応じた適切な理学療法を提供するためには,「情報収集・理学療法評価→アセスメント→治療→再評価」という一連の行動様式が不可欠である。すなわち,対象者の病態と治療前後の変化を的確に把握することによって,多種多様な臨床症状や障害像に対応した適切な理学療法プログラムを選択することが可能になる。定量的評価は,対象者の病態やその変化を具体的に把握するのに役立つため,適切な治療法の選択などの臨床判断に活用できる。一方で,定量的評価には測定値を一般化できる値がなければ,対象者の評価結果を正しく解釈することは困難となる。また,定量的評価の測定誤差が明らかになっていなければ,治療前後の変化を適切に判断することは困難となる。したがって,理学療法評価の標準値や最小可検変化量(minimal detectable change:以下,MDC)を明らかにし,暗黙知であった理学療法士の臨床判断を形式知化する必要があると考える。

    2.多施設共同研究によるデータの蓄積

     我々の研究グループ(physical therapy diagnostics group:以下,PTDG)では,2013年7月から2018年12月までの間,手術療法の適用となった変形性膝関節症患者を対象に多施設共同研究を実施した。多施設共同研究では,多くの症例データを蓄積することによって,層別化した客観的指標を抽出することを目的とした。その結果,1,103例(人工膝関節全置換術:797例,人工膝関節単顆置換術:306例)のデータを収集し,理学療法評価の標準値・MDCと臨床予測式(clinical prediction rule:CPR)を抽出することができた。我々の多施設共同研究において得られた指標は,理学療法士の臨床判断に活用できる可能性があるため,根拠に基づいた理学療法(evidence-based physical therapy:EBPT)の実践に繋がると考える。

    3.臨床判断に役立つ指標の提案

     日々の臨床活動において適切な臨床判断を行うためには,客観的指標を活用する必要がある。理学療法士の臨床判断の客観性を高めることができれば,臨床研究への発展に繋がるとともに,対象者に病態や治療効果に関する内容を分かりやすく説明することが可能になると考える。本セミナーでは,PTDGによる多施設共同研究の成果を踏まえて,理学療法士の臨床判断に役立つ指標について紹介する。

オープニングセミナー
  • ~運動刺激はどう働く?~
    萩野 浩
    セッションID: A-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     わが国では人類が経験したことのないスピードで超高齢化が進行している。85歳以上の人口は1980年には53万人であったが,2017年には約500万人に達し,2040年には1000万人を超える。骨粗鬆症は骨強度が低下して骨折が起こりやすい状態と定義され,高齢者人口が多くなるほど,患者数が増加し脆弱性骨折患者数も多くなる。脆弱性骨折は患者のADL・QOLを著しく引き下げるのみではなく,その治療に要する費用が莫大である。また,脆弱性骨折の患者の介護負担も大きいため,不本意な離職を余儀なくされている家族が多い。わが国の大腿骨近位部骨折発生数は年間約20万と推計されるが,2040年には30万例に達すると予想される。骨粗鬆症治療の目的はこの脆弱性骨折予防である。

     骨粗鬆症治療には,運動療法,食事療法,薬物療法があげられる。このうち運動療法では骨にメカニカルストレスを加えることで,骨形成が促進され骨密度が改善する。近年,その基礎的なメカニズムが解明され,骨細胞がメカニカルストレスを感知して骨細胞へシグナル伝達していることが明らかとなっている。骨に加わるメカニカルストレスは短時間に変化が大きい方が骨形成に有利と考えられる。運動療法による骨密度増加は大きくはないが,運動により転倒リスクの低減効果も同時に得られることが知られている。高齢者でも運動療法によって筋力アップや筋肉量の増大が可能であることも明らかとされていて,高齢者における運動療法は骨粗鬆症治療の重要な柱である。骨粗鬆症治療におけるもう一つの重要な柱である薬物療法は,十分な骨折予防効果が証明されている。最近,新規骨形成促進薬が開発・臨床応用され,臨床現場ではさまざまな作用機序を有する薬剤が使用されている。

     本講演では骨粗鬆症の現状と課題を示し,運動療法による骨密度増加やその骨折予防効果,また薬物療法の作用機序について説明する。

  • 紺野 慎一
    セッションID: A-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     腰部脊柱管狭窄の症状の特徴としては,神経性間欠跛行が挙げられる。間欠跛行の内容を十分に問診し,さらに歩行負荷試験を行い症状の分析を行えば,診断が可能である。障害部位が神経根のみか,馬尾かで治療方針が異なってくるので,これを正確に診断する必要がある。ABI(ankle brachial pressure index)<0.9の症例では,血管性間欠跛行である可能性が高い。

     神経原性間欠跛行は,歩行負荷試験や選択的神経根ブロックによる症状分析で馬尾型,神経根型,および混合型の3群に分類できる。馬尾型は,自覚的には下肢,臀部および会陰部の異常感覚,膀胱直腸障害,下肢脱力感や性機能不全を訴え,疼痛はない。他覚的には多根性障害を特徴とする。たとえば,責任高位がL4/5椎間高位である場合には,第5腰神経根以下の多根性障害を呈する。神経根型は,自覚的には下肢の疼痛を主訴とする。他覚的には単根性障害を特徴とする。この型の脊柱所見や自覚症状は単一神経根ブロックで一時的に消失する。混合型は,馬尾型と神経根型の合併型で,下肢の疼痛は単一神経根ブロックで一時的に消失するが,他の症状には何らの変化も起きない。

     脊柱管狭窄には変形性脊椎症や変性すべり症等のさまざまな疾患が含まれている。日本脊椎脊髄病学会では医師用の診断サポートツールを開発している。7点をカットオフ値に設定した場合の感度は92.8%,特異度は72.0%である。患者用として自記式の診断サポートツールも開発されている。

     腰部脊柱管狭窄に対する保存療法は,投薬,各種神経ブロック療法,装具療法および理学的治療など多岐にわたっている。腰痛・下肢痛を主訴とする症例を治療する場合には,消炎鎮痛薬の投与や各種ブロック療法を行う。術前に精神医学的問題の有無のスクリーニングを行い,精神医学的問題がある可能性が高い症例では,手術は可能な限り避ける必要がある。手術の絶対的適応はない。術前に患者の活動制限の程度,社会背景,および精神医学的問題の有無を十分に把握することが重要である。手術により通常,間欠跛行は消失する。しかし,手術をしても経年的に術後成績は悪化することが多い事実を術前に説明しておく必要がある。さらに,神経自体の不可逆性変化に由来する安静時のしびれは,術後残存しやすいことを説明しておく。

  • ~運動療法の効果に関するエビデンスの構築~
    石田 和宏
    セッションID: A-88
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     日本では治療方針や診療ガイドラインに影響を与えるようなインパクトのある理学療法研究が非常に乏しい。これは,国民の保健・医療・福祉の向上を目指している我々理学療法士にとって深刻な問題である。日本理学療法士学会の大きな使命としては根拠に基づいた理学療法の構築がある。そこで当学会では,運動器の理学療法領域におけるエビデンス構築に向け,多施設共同研究を推進したいと考えている。当学会では数年前より日本腰痛学会理事長の紺野愼一教授および福島県立医科大学の関口美穂教授のご指導を仰ぎながら腰部脊柱管狭窄症(LSS)の多施設共同研究を第一弾として企画した。

     LSSに対する運動療法の効果に関して,本邦の診療ガイドライン(2011)では有効性に関する十分なエビデンスは無い(Grade I)と述べられているが,腰殿部痛や下肢痛に対して有効であるとのエビデンスも一部で示されている(Grade C)。海外のsystematic reviewに目を向けると,運動療法は低いエビデンスではあるが痛みや機能の改善に有効である(Ammendorlia C, 2012)とも述べられている。近年のRCTでは,運動療法は重度の症例を除けば手術と同等の効果が得られる可能性があり,保存療法の第一選択として実施すべきとも報告されている(Delitto A,2015)。

     運動療法の内容に関しては,体重免荷トレッドミル歩行や自転車などの有酸素運動(Fritz 1997,Pua 2007),脊柱の柔軟性改善を目的とした腰椎屈曲運動および胸椎伸展・回旋運動(Whitman 2003・2006,Murphy 2006,Backstrom 2011),股関節周囲のストレッチングおよび骨盤後傾運動(Rademeyer 2003,Yuan 2004,Backstrom 2011),股関節周囲筋の筋力強化(Frize 1997,Rittenberg 2003),体幹筋強化・安定化運動(Frize 1997,Simotas 2000,Backstrom 2011)などの有効性が報告されている。しかし,どの運動療法が最も有効なのか検討した報告は存在しない。

     一方,国内ではLSSの運動療法として一般的に静的な運動であるストレッチング,動的な運動である筋力強化および有酸素運動が推奨されているが(運動器診療最新ガイドライン2012,松平浩2016),その有効性に関して検証した前向き研究は存在しない。

     そこで当学会では,LSSと診断された患者に対する動的な運動療法(筋力強化・有酸素運動)の効果を明らかにすることを目的とした。本研究では全国約20施設が協力施設となり,日本腰痛学会の理事・会員の医師のご支援も頂きながら,データ収集の段階(2019年5月1日時点)まで至っている。

     本シンポジウムではLSSにおける運動療法の実施状況に関する国内の調査報告とLSSの多施設共同研究の概要について紹介する。

  • 藤澤 宏幸
    セッションID: A-89
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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    1.緒言

     運動器理学療法では特に関節運動の形成に着目し,正常からの逸脱に対してその原因と結果についての仮説を立て,治療に役立てる。関節運動は体節のリンクによって形成されており,日常生活やスポーツ場面における関節運動は多関節運動である。その意味で,隣接する関節の強い影響を受けながら,運動パターンが決定されている(相互作用)。したがって,関節協調性の観点が欠かせず,その形成についても関心を向けざるを得ない。本セミナーにおいては,関節運動の原理,運動軌道,関節運動パターン形成について概観した後,抗重力方向・重力方向(矢状面)における運動形成,除重力方向(水平面)における運動形成と関節協調性について説明したい。また,関節協調性における本質的な運動連鎖の捉え方についても議論する。

    2.関節運動の原理

     順方向の運動力学,運動学にしたがえば,中枢指令によって筋張力が制御され筋腱粘弾性による張力を含めて筋トルク(関節トルクと同義)を発揮する。ただし,関節運動を最終的に駆動するトルク(ネットトルク)は,重力トルク,相互作用トルク,その他の反力トルクの和として決定される。すなわち,筋トルクはネットトルクの構成要素の一つでしかなく,全体の調整役といった方が適切である。矢状面での多関節協調運動においては,相互作用トルクのネットトルクへの寄与が存外に大きい。一方,水平面での運動においては筋トルクのネットトルクへの寄与が大きいことは運動制御を検討するにあたって重要な事実である。

    3.関節運動パターンと運動軌道の形成

     関節運動が生じることによりある身体部位の運動軌道が形成される。例えば,大腿前面に手を置いた状態から前方へのリーチ動作を行う場合に,肩関節屈曲・肘関節伸展運動により直線的な指先軌道が形成される。歩行においては下肢関節運動を中心とした全身の関節運動により体重心軌道が形成されるといえる。関節運動パターンは,解剖学的要因とバランス要因という二つの拘束条件のもとに,ある特定のパラメータを最適化するように形成されると考えられる。日常動作においてはエネルギーコストを最小にするよう最適化がなされており,それを証明するデータも揃いつつある。その一方で,スポーツにおいては最適化する目的関数が速さのこともあれば,正確性(投球動作での制球など)の場合もある。厳密には二つのパラメータを最適化することはできない(トレードオフ関係)が,実世界では複数の目的関数を有する多目的最適化を考える必要性があり,その概念についても説明したい。

    4.協調性の理解

     協調性は筋協調性と関節協調性とに大別され,関節協調性は一側肢内協調性(intralimb coordination)と肢間協調性(interlimb coordination)に分類される。筋協調性は関節運動を制御している筋活動の順序性・活動量,主動筋および拮抗筋活動の適切さを表現している。したがって,通常はその結果としての関節協調性を主体にみることが多い。ここでは,矢状面における動作としてスクワット動作,立ち上がり動作を,水平面における動作として振り向き動作(坐位,立位),正弦波状タンデム歩行を取り上げ,その関節協調性について論じる。加えて,運動連鎖を再考し,協調的な関節運動形成としてのCKC,OKCの概念についても触れたい。

  • 中山 明峰
    セッションID: A-90
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     前庭機能障害患者に対するリハビリテーション(以下リハビリ)は,1944年にCawthorne.Tが,1946年にCooksey.FSが初めて報告して以来,数多くの臨床研究が行われており,姿勢安定性や固視機能,めまい感の改善に効果あることが報告されている1)。一側あるいは両側の前庭機能障害は,頭部運動に対する前庭神経の反応性が低下することで,平衡障害や姿勢安定性の低下,動揺視を引き起こしめまい感が誘発される。さらにめまい症状は,不安の増加や活動の制限などの心理社会的問題を引き起こすことで症状が増悪し,めまいの悪循環に陥る2)。そこで前庭リハビリは,視線を固定した状態での頭部運動やめまい感を誘発する運動,困難なバランス課題などの繰り返しにより,前庭神経核や小脳などの中枢神経系における代償を促すことで,立位・歩行中の姿勢安定性や頭部運動中の固視機能を改善し,動作・活動に対する耐性を高めて,日常生活活動の制限を少なくすることを目的に行われる。

     リハビリの介入方法には,エクササイズを集団で行う方法や,小冊子を渡して自宅にて行ってもらう方法など様々なものがある。先行研究では,個々の患者の問題点や身体機能に応じて,個別のリハビリプログラムを治療者の監視のもとで行う方法を推奨している報告が多い。このように世界各国では前庭機能障害に対する個別リハビリの有効性は数多く報告されているのにもかかわらず,我が国においてエビデンスベースに基づく研究,実施された報告は多くない。

     本邦の問題点として,海外では医師がめまいを診断,前庭リハビリを指示し,理学療法士が行うという制度が普及していない。医師が直接治療に携わることは,治療効果にバイアスがかかる。また,現実問題として多忙な診療業務のなか,さらに現時点で医療保険制度が確立されていない状態では,前庭リハビリが普及することは容易ではない。このことを解決するために,理学療法士の皆さまにめまいとはなにか,なぜめまいにリハビリが効くのか,実際どのように実行するのか,などを含め,当施設がこれまで試み,現在も進行している前庭リハビリ方法を紹介する。

  • 森本 浩之
    セッションID: A-91
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     めまいは非常に多くの人が経験する症状の一つであり,さらに,めまいはADL制限を招きQOLが著しく低下することが知られている。めまいに対する治療の一つとして前庭リハビリテーションが行われている。前庭リハビリテーションは1940年代にCowthorneとCookseyらにより最初に報告されて以来,前庭機能障害(一側性前庭機能障害,良性発作性頭位めまい症)に対する前庭リハビリテーションの効果は世界各国で数多く報告されている。前庭リハビリテーションの効果はめまいの減少,バランス機能の改善,転倒の減少などがあげられ,めまいやふらつきに対しては非常に効果の高い治療法であり,メタアナリシスにても前庭リハビリテーションの効果が示さている。しかし,本邦においては,海外と比較して前庭リハビリテーションを行う施設が少なく,また,めまいを専門としている耳鼻科医と理学療法士が連携して治療が行われていない。さらに,卒前および卒後教育にて前庭リハビリテーションに関する教育を受ける機会が非常に少ないため,前庭リハビリテーションがあまり普及していないのが現状である。一方,アメリカにおいては理学療法の一専門分野として前庭系理学療法Vestibular Physical Therapyが確立されている。さらに,末梢性の前庭機能障害(一側性前庭機能障害,良性発作性頭位めまい症)に対する前庭リハビリテーションのガイドラインが作成されている。ガイドラインは誰が,いつ,何を,どのように治療を行えば良いかが明確に示されており,臨床場面においてガイドラインの活用は理学療法士にとって治療の手助けとなる。

     今回は,アメリカにおける前庭リハビリテーションのガイドラインを中心に,実際の前庭リハビリテーションの方法や理論を簡単に述べさせていただく。

  • 大石 敦史
    セッションID: A-92
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     「クリニカルリーズニング」や「エビデンスを用いた理学療法(EBPT)」という用語は本邦では1990年代後半から使われはじめた。その中で用語の定義が曖昧なまま,臨床では対象患者に適切なエビデンスが用いられず,理学療法の効果が停滞しているケースも散見される。

     EBPTの元となったEvidence Based Medicine(EBM)「根拠に基づいた医学」とは,「個々の患者のケアに関する意思決定の際,良心的に,明確に,分類を持って最新最良の医学知見を用いること」と定義されている。つまり解剖・生理学的知識のみでなく,研究で得られた客観的な経験知を共有し,その情報を分析・駆使して患者の治療方法を選択し実践することである。EBPTを実践するためには,得られたエビデンスの情報が対象患者の心理社会的側面を考慮した上でそのまま適応できるか判断する技量が求められる。これにはクリニカルリーズニングが必要となる。

     クリニカルリーズニングとは,「臨床における諸現象を理解するために,得られた情報を論理的に分析・解釈し,未知の事柄を判断し決定していく過程」と定義されている。これは疾患や病態に応じてただエビデンスを用いた治療を行うこととは異なる。まず患者の訴えから主訴と治療目的を明確化し,症状の出現様式やその特徴から病態と障害の出現メカニズムについて仮説を立案する。次にその仮説を立証するための適切な身体機能検査を選択し,患者の主訴である症状を検査によって再現させ,障害の出現メカニズムを検証する。そして患者に障害を改善させるための最適な治療方法を決定し実践する。さらに治療後は効果判定によって,自ら立案した仮説の検証を行う。治療効果が不十分であった場合には仮説の修正と治療方法の変更を行う。この一連の過程により,何が原因で患者の問題点が生じるかを紐解くことができる。

     研究や臨床知見から得られるエビデンスは日々更新されている。検査方法では感度・特異度の検証が進み,治療方法においても臨床研究による効果検証が行われている。よってエビデンスの情報を更新し適切に選択することにより,検査で得られた情報の信頼性と妥当性が向上し,障害のメカニズムをより科学的に証明することができる。また治療においては,対象患者の心理社会的側面に沿った最適な治療方法を選択し実践する必要がある。そのためには,患者ごとの背景やニードを理解した上で,たくさんのエビデンスの中から効果的かつ患者が最も受け入れやすい治療方法を選択して提供する技量が不可欠となる。

     本セミナーでは,運動器疾患におけるクリニカルリーズニングの流れと,その過程におけるエビデンスの使い方について解説する。臨床現場において患者ごとの最適な治療方法を選択する一助になれば幸いである。

モーニングセミナー
  • 福井 勉
    セッションID: A-93
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
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     バイオメカニクス(biomechanics)の知識は運動器理学療法の評価上重要です。また日常の臨床と研究の交差点にもなり,姿勢や歩行の評価,治療効果の判定などにおいても重要です。一方,知識を有していても臨床に落とし込むには両者の間を埋めるための一定の知識に基づいた創造性も必要になると思われます。人の姿勢や動作の評価の基本となるのは,力学的モデルですが,理学療法で重要となるモデルは,剛体力学モデルです。人の身体を幾つかの体節に分け各々の体節は身体全体に対する質量比と体節重心について屍体データに基づき様々な計算が行われます。身体運動中に動作解析装置で計測した運動学的データと床反力装置で計測した力学データから各関節に作用する関節モーメント,筋が発揮または吸収する関節パワー(力学的エネルギーの時間変化率)を計算することができます。計算される関節モーメントは,各関節に作用する回転モーメントで,主に筋肉が発揮した力に依存して変化します。また,関節パワーは筋肉が行った仕事の時間微分に相当します。関節モーメントは筋のみで発揮するものではなく,軟部組織の伸長によるものや装具などの外部に装着したものにより変化します。

     立位や歩行の身体全体モデルとしては身体重心,足圧中心,重力,床反力などによる解釈が一般的です。重力と床反力はそれぞれ身体重心,足圧中心に作用していると考え,2つの合力が身体に作用していると考えるものです。スクワット動作などでの身体の下方移動は,床反力よりも重力が大きい為に生じ,上方移動の際には床反力が重力より大きい為に生ずると解釈します。歩行中には歩行周期に伴って床反力は時々刻々変化し,初期接地では前脚踵に上方,後方へ作用します。この力により身体は後方,上方へ加速される事になります。また立脚中期では身体重心は最も高い位置にありますが,床反力の垂直成分は重力より小さくなる為に下方に加速されます。前額面では主として内側への力を受ける為に,反対側への重心移動に関係します。立脚後期では後脚前足部で上方,前方への力を受けます。この力により身体は前方,上方へ加速される事になります。また床反力における前後左右成分はすべて摩擦力と考えることができます。

     バイオメカニクスの所産は理学療法の臨床上どのような場面で活かされているでしょうか。身体重心は,ゆっくりとした運動においては,床への投影が足圧中心とほぼ一致することから,立位姿勢においては足裏の荷重部位が判別可能です。前足部なのか踵荷重なのか肉眼で容易に判断できます。また同時に足裏内側,外側どちらの荷重なのかも判別可能です。立脚中期での身体重心の最高位置や左右最大移動位置,あるいは両脚支持期の身体重心の最低位置も観察が容易です。またいわゆる重心線と関節位置の関係性から,外力が関節に与えているモーメント(外部モーメント)とそのモーメントに対抗するため身体が発揮するモーメント(内部モーメント)も概ね判可能です。関節モーメントが観察により判断できることにより,評価として用いるだけではなく,運動療法そのものの選択にも利用できます。視覚的観察評価のためには,上半身と下半身の質量中心を既定してその中点を観察する方法も利用可能です。

     バイオメカニクスの臨床応用に関しては今後かなり余地があると思います。筋電図や加速度計,その他の様々な生体信号やウエアラブル端末あるいは超音波装置などの画像解析装置との同期による,身体相互の協調性や関連性の分析はまだこれからの事項と思われます。それは運動そのものの未知事項の解釈と関係するだけではなく,普段,視覚的な観察で得ている様々な事象の客観性の確立のためにも必要です。しかし気づきは人間の感覚器から得ている情報整理であるため,日常における観察眼をいかに養うかがバイオメカニクスの鍵となると思われます。

  • 市橋 則明
    セッションID: A-94
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/31
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     廃用や加齢による筋力低下は,歩行障害や日常生活動作の障害につながるため,筋力低下に対する運動療法は理学療法プログラムの中でも最も重要なものの1つである。本講演では,超音波を使った筋の評価と筋力トレーニングの実際に関して,我々の最新の研究結果を中心に紹介する。

    1.超音波を使った筋の評価

    1)骨格筋の量的評価

     近年,サルコペニアが注目されているが,加齢によりすべての筋が同程度に萎縮するのであろうか? 萎縮しやすい筋,萎縮しにくい筋は何か? 健常若年女性と健常高齢女性の下肢筋の筋厚を比較した我々の報告において,加齢による筋萎縮がもっとも顕著であった下肢筋は大腰筋であった。また,ヒラメ筋の筋厚は若年者と歩行が自立している高齢者との間には有意差がなかったのに対して,若年者と歩行困難な高齢者との間には有意差がみられ,ヒラメ筋は歩行が自立している高齢者では加齢による筋萎縮が少ないことが確認された。本講演では,高齢者や変形性関節症患者を対象に超音波で測定した筋厚評価に関して紹介する。

    2)骨格筋の質的評価

     我々は筋内の非収縮組織(脂肪や結合組織)の増加といった骨格筋の質的変化を超音波画像の筋輝度を用いて定量的に評価している。筋輝度は0から255の256段階で表現されるグレースケールで評価され,値が大きいほど高輝度で筋内の脂肪や結合組織などの非収縮組織が増加していることを意味する。加齢に伴い筋内の非収縮組織の割合が増加するため,高齢者の超音波画像における筋輝度は高くなる。大腿四頭筋の超音波画像の筋輝度を高齢者と若年者とで比較すると,若年者と比較して高齢者の筋輝度は有意に高値を示す。本講演では,高齢者や変形性関節症患者を対象とした質的評価に関して述べる。さらに,筋輝度による筋の伸張性評価の可能性に関して紹介する。

    2.筋力トレーニングの実際

     筋力増強のための重要な2つの原則は,過負荷の原則と特異性の原則である。この2つの原則は間違いのないものであるが,どのような場合にも適応するものであろうか?例えば過負荷をかけられない高齢者や術後患者の筋力トレーニングはどのようにしたら良いのか。負担のかからない低負荷で筋力増強効果を得るためのトレーニング方法を考えることは理学療法にとって非常に重要である。近年では,最大の30%の負荷量でも疲労困憊まで回数を繰り返したら筋肥大が起こったという報告もある。本講演では我々が行っている低負荷でのトレーニング効果に関する研究やパワートレーニング,スロートレーニングに関する研究を紹介する。

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