抄録
【目的】半側空間無視に対する新しい治療法として、最近Rossettiらはプリズムアダプテーション課題を報告している。すなわち右偏光プリズム装着下において数十回リーチ動作をすることで、右にずれて見える指標と実際の手の位置との適応の結果、左半側無視の改善が認められるという。筆者らはこのプリズム課題と同様な目的で、プリズムを使用しない課題(ロッドアダプテーション)を開発し、これらの課題遂行が体幹正中位認知にどのように影響するかを検討した。【対象】対象は、視力・視野に問題のない健常な8名の大学生(男2名、女6名)で平均年齢は21.6歳であった。被験者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。
【方法】体幹正中位認知テストとして、車椅子座位の被験者正面に肩関節の高さに合致させたオーバーテーブルを顔面から50cmに設置し、アイマスクを装着し、主観的正中位置を、反射マーカを付した右手示指で指差し、テーブル上のメジャーにより、0.5cm単位で10回計測した。このテストを後述のプリズム課題とロッド課題の前後に施行した。プリズム課題は、右7度偏光のプリズム眼鏡を装着し、被験者の肩および上肢が見えないように布をかけた状態で、テーブル上正中位の棒を見ながらテーブル下方体幹正中位にある目標(棒)に対するリーチ動作を50回行った。ロッド課題は、同様にテーブル上で正中より右側に6cmずれた位置の棒(ロッド)を見ながら、テーブル下にある正中線上の棒を右手でつかむ動作を50回行った。被験者正面前方からデジタルビデオにて撮影し30分の1秒ごとにモーションキャプチャでコンピュータに取り込み運動軌跡と目標到達時間を計測した。
【結果】体幹正中位認知テストにおいて、対象群全体で見るとプリズム適応の前:左0.32cmに対して適応後右1.28cmと右方向に認知する傾向があった。一方ロッド課題では適応前:右1.52cmに対して適応後右1.58cmと変化はなかった。しかし個々の対象ごとにその変化を検討すると、プリズム課題では正中位認知が有意に右方向に変化したものは8例中4例であり、ロッド課題では右方向への変化は1例であったのに対して左方向への有意な変化は3例に認めた。二つの適応課題の最初の5回と最後の5回の目標到達にかかる時間的変化を見ると、最後の5回において有意に時間が短縮していた。
【考察とまとめ】リーチ動作時間の変化から、どの課題でも適応が認められたものと考えられる。若年健常者のプリズム適応の結果は従来の報告と異なり、適応後体幹正中位認知は右方向へ変位する傾向をしめした。一方ロッド適応課題後では、左方向変位の傾向があった。今回の結果と従来の研究の相違および半側空間無視例への適用については今後の検討課題であるが、ロッドアダプテーションという簡易な方法で認知的変容をもたらしえる可能性がある。