抄録
【目的】正常肩および投球障害肩の肩周囲筋力を測定したデータから、投球障害から投球復帰に至るまでに必要な筋力の特性を検討する。
【対象および方法】1995~2001年までの7年間に当院を受診した高校野球部投手の利き手側265肩(正常群150肩、障害群115肩)を対象とした。全例に対してCybexllを用いて内外旋筋力比、筋持久力を測定し、あわせて日本肩関節学会肩スポーツスコア(以下Sports Score)、投球復帰について調査した。筋力測定は90°外転位での内旋、外旋を角速度60°/秒で測定し、外旋筋力を内旋筋力で除した値(以下内外旋筋力比)を求めて正常群、前部障害、腱板障害、後部障害の4群に分け比較検討した。また筋持久力測定は角速度300°/秒の条件で、実際の投球フォームでのスローイングをイメージして全力で肩関節180度屈曲位から0度まで伸展させる動作を休息なしに30回連続的に繰り返させた。この際1~10回までの各伸展運動の仕事量の合計(初期値)と21~30回までの各伸展運動の仕事量の合計(終末値)を求め、その比率(終末値/初期値×100(%))を計算した。肩関節機能はSports Scoreと筋持久力との関連について単相関係数を用いて検討した。また、筋持久力とSports Scoreが投球復帰に及ぼす影響についてはロジスティック回帰分析を用いて検討した。
【結果】腱板障害の内外旋筋力比は84.1±3.9%(Mean±SE)で正常群70.6±4.2%と比較し有意に高値を示した。正常群のSports Score は全例100点であり、筋持久力は75%以上に集中していた。一方、障害群の筋持久力はばらつきがみられるが、筋持久力とSports Scoreは有意に強い正の相関を示した (r=0.822、P<0.05)。筋持久力が70%以上の成績を示していたものの多くはSports Scoreで80点以上を示し、投球復帰ができていた。筋持久力とSports Scoreが投球復帰に及ぼす影響についてロジスティック回帰分析を用いて検討すると、筋持久力のロジスティック回帰係数に有意差を認めた。
【考察】投球障害肩の治療において、これまで医師や指導者の経験的なものによるところが大きく、投球再開時期を決める客観的な指標は存在しなかった。今回正常群、障害群で内外旋筋力比に差が生じること、筋持久力テストの結果が競技復帰の可否に相関することが判明したことは、障害の予防ならびに治療において内外旋筋力比の是正に重点をおいた選択的な筋力強化リハビリテーションが重要なこと、および筋持久力を高めるトレーニングの必要性が示唆された。今後投球障害肩の治療において具体的な到達目標、および指標ができたと考えた。
【まとめ】内外旋筋力比および筋持久力の測定は投球障害後の投球復帰時期を決定する指標になり得ると考えられた。