抄録
【目的】
車椅子駆動は歩行困難な患者の移動手段であるだけでなく、日常生活においてフィットネスレベルを維持するための活動という側面もある。車椅子駆動の運動強度についていくつか報告があるが、駆動速度による違いや他の基本動作と比較した報告は少ない。今回片麻痺患者を想定した片手片足での車椅子駆動の酸素摂取量について、速度による違いの検討と、基本動作時の酸素摂取量と比較することを目的に、以下の研究を行なったので報告する。
【方法】
健常人12名(男性8名女性4名)、平均年齢30.83歳±4.78を対象とした。車椅子駆動はトレッドミル上で右手右足駆動にて、20m/min、30m/min、40m/minの各スピードで3分間行なわせた。基本動作は背臥位からの起き上がり(以下、起き上がり)、端坐位での体前屈(以下、体前屈)、端坐位での片側下肢挙上(以下、下肢挙上)の3種類とした。起き上がりは5回/min、体前屈は12回/min、下肢挙上は30回/minとし、メトロノームにてリズムを設定して3分間行なわせた。ミナト社製AE300Sにより呼気ガス分析を行い、各課題での酸素摂取量を測定した。酸素摂取量の値は動作開始からほぼ定常状態となる1分~3分の2分間での平均値を採用した。背もたれ椅子での安静坐位の酸素摂取量も併せて測定した。Wilcoxonの符号付き順位検定により、各課題での酸素摂取量の差を検討した。
【結果】
安静坐位の酸素摂取量(ml/kg/min)は平均3.71であった。車椅子駆動の酸素摂取量の平均は20m/minで5.83、30m/minで6.42、40m/minで7.13となり、各々の間に有意差が認められた。基本動作の酸素摂取量の平均は起き上がりが8.10、体前屈が6.62、下肢挙上が6.91であった。車椅子駆動と基本動作の比較では、20m/minと起き上がりおよび下肢挙上、30m/minと起き上がりの間に有意差が認められた。その他の組み合わせでは有意差は認めなかった。
【考察】
車椅子駆動の酸素摂取量については諸家の報告があり、野田らは80歳代の高齢者で4.5~7.5(速度12.0~44.0m/min)であったとしている。今回は年齢層や条件が異なるものの、この報告に近い結果であると思われる。一方森は健常人の起き上がり時の酸素摂取量を8.5としており、今回の結果はおおむね一致するものと考えられる。速度により酸素摂取量に差がみられたことから、より速く駆動する方が高い活動量が得られ、フィットネスレベルの維持につながると考えられる。また速い駆動が困難な場合、むしろ起き上がりや下肢挙上といった動作の方が、高い運動強度が得られる可能性も考えられる。今回は健常人が対象であり、結果を片麻痺患者に直接適用することはできないが、患者の日常における活動を検討する上で参考になるものと考えられる。