理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 443
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内部障害系理学療法
重度起立性低血圧症患者のTilt Tableでの血圧変化
*中村 重敏齋藤 慎也松岡 文三伊藤 倫之美津島 隆
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抄録

【はじめに】重度の起立性低血圧(Shy Drager症候群疑い)の理学療法を行う機会を得た。離床に難渋したが、薬物療法との併用により起立歩行が可能となった症例に対しTilt table での起立負荷試験を行い、一知見を得たので報告する。
【症例紹介】78歳女性 身長150cm体重56kg診断名Shy- Drager症候群疑い
【現病歴】平成12年頃より血圧の低下がみられ、意識消失をしたことも月一回程度みられた。平成15年7月中旬に呂律が回らなくなり意識消失発作がみられた。8/13当院での精査目的で内科に入院となった。
【身体所見】全体像:意識清明、明らかな運動麻痺なし、バイタル:BP131/74 HR77MMT:右左上肢4左右下肢5-反射:腱反射 正常 病的反射:なし脳神経:問題なし
【経過】8/26 ベッドサイド理学療法開始8/28腹帯を装着して60°ギャッジアップ10分9/4ベッド上、長座位9分9/24ベッド上長座位20以上可能9/29メルヒジン投薬(昇圧剤)10/15 Tilt table開始10/28平行棒内歩行5分間可能となる11/19退院となる。
【方法】本症例に対しメルヒジン使用後に Tilt tableで起立試験を行った。傾斜角度を3分ごとに0°30°60°90°と上げるものと、1分ごとにTilt tableの角度を10°づつあげるもの各々について連続血圧計にてその際の血圧と心拍数を測定した。また座位からの起立と、歩行を行い同様に血圧と心拍数を測定した。     
【結果】起立角度30°後半から血圧が落ち始め60°では収縮期血圧100以下となり90°に角度を上げると、瞬時に耐えられなくなった。また心拍応答は臥位での心拍数から10%程度の心拍数増加がみられた。角度を一分間に10°づつ上昇させた場合も40°から急激な血圧低下がみられた。立位保持では2分30秒で保持できなくなり、歩行では3分で歩行困難となった。血圧変化は立位より歩行のほうがより低下が少なかった。
【考察】Tilt tableによる運動負荷試験では傾斜角度30°までは血圧を維持できるがそれ以上の角度になると急激な血圧低下が起った。本症例は疾病のため自律神経機能低下により血管調節反応と心拍応答が生じずらく意識の消失を引き起こしていたと考えられる。歩行時には立位保持にみられたような急激な血圧低下はなく、心拍数も1分間90前後で運動開始時と終了時に変化はみられなかった。これは、歩行時には筋活動に伴う筋ポンプ作用により静脈還流が補助されたためと思われる。メルヒジンは血管収縮作用により血圧を上昇させる。本症例はメルヒジンにより血圧が上昇したため起立歩行が可能になったが、起立試験の結果より角度に適切に対応して血管収縮心機能を調節することが困難であることが明らかになった。その点をふまえて、5分以上の起立歩行は転倒の危険があることを指導した。

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© 2004 日本理学療法士協会
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