抄録
【はじめに】
高齢障害者は廃用症候群を起こしやすく、いったん起こすと悪循環を繰り返し、回復困難な状態に陥ることがある。この悪循環を断ち切るためには起こすことが必要であり、いかに離床を進めるかが理学療法を行なう上でも重要となる。
そこで今回、当院入院患者の移動動作能力と離床時間を調査し、十分な離床が行なえているかどうか等を検討したので考察を加え報告する。
【対象及び方法】
対象は当院入院患者56名のうち、PT処方箋が出ていない者を除いた47名(男性14名、女性33名)とした。年齢は50~102歳、平均82.2歳、主疾患は中枢神経疾患30名、骨関節疾患11名、内科系疾患6名、病棟での移動動作を5群に分けると、独歩群2名、杖・歩行器歩行自立~歩行監視群(以下、杖・歩行器群)5名、車椅子移乗(以下、W/C)自立群6名、W/C介助群13名、W/C全介助群21名となった。
離床時間の調査は平日の9時から18時までの9時間とし、半時間単位で離床状況を二日間確認した。なお、離床時間とはベッドから離れて過ごす時間で、ベッド端座位で食事等を行なっている時間は除外した。そして、各群と離床時間との関連について一元配置分散分析及びScheffe`s検定を用いて検討した。有意水準は5%以下とした。
【結果】
移動動作能力別に見た離床時間は、独歩群4.3±0.4時間、杖・歩行器群4.5±0.7時間、W/C自立群4.1±1.0時間、W/C介助群3.2±1.4時間、W/C全介助群1.7±1.1時間であった。各群間で離床時間に差が認められたのはW/C全介助群とW/C介助群、W/C全介助群とW/C自立群、W/C全介助群と杖・歩行器群であり、W/C全介助群が有意に短かった。
【考察】
当院における離床は、W/C全介助群を除いてある程度実施できていることが確認できた。これは、当院には個別訓練に加え、午前1時間の集団体操や午後1時間のレクリエーションという基本的リハプログラムがあり、全身状態に問題がなければほとんどの患者が参加していることが挙げられる。その背景には57床というベッド数に対し、離床スタッフがPT6名、助手5名の計11名いる他、その病室にいる看護師や看護助手が離床を手伝うという人的環境があること、そして各種車椅子が計38台ある他、トランスファーボードや介助用ベルトを備えていたり、長時間の車椅子坐位を取りやすいように多層構造の車椅子クッションや滑り止めシートを利用していること等が考えられる。なお、W/C全介助群の離床時間が少ないのは、全身状態が不良である者やADLに多大な介助を要する者が多く、基本的リハプログラムの時間帯に医療処置やオムツ交換等を行っているためと考えられる。
離床時間をさらに増やすための今後の課題としては、基本的リハプログラムの時間帯の工夫や内容の充実、さらにはADLの工夫等が挙げられた。