理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 980
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生活環境支援系理学療法
要介護高齢者の意欲の評価
施設入所要介護者と居宅サービス利用要介護者との比較
*村田 淳橋本 真一市川 淳一
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キーワード: 要介護者, 意欲, 対象喪失
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抄録
【目的】
 介護保険法は,高齢者の自立支援を目的として立案されたものであるが,導入後,果たしてどの程度自立支援が効果的に行われているのかと言う点については未だ明確にされていない。高齢者の自立支援には,単に身体的な能力の問題だけではなく本人自身の自立への意欲が非常な重要であり,それを支える環境の問題も無視できない。そこで今回,介護保険下で要介護と認定された高齢者の意欲低下の要因を探るべく,高齢者の意欲と日常生活動作能力との関係について調査した。
【方法】
 対象は介護度2または3と判定された,年齢は70歳以上の要介護者58名とした。対象の内訳は介護療養型病棟入所者(以下入所群)26名,平均年齢84.12歳,通所リハビリテーション利用者(以下通所群)32名,平均年齢80.75歳であった。
方法は,入所・通所記録より認定されている要介護度及び家族状況を調査し,さらに現時点での日常生活の自立度,意欲の評価を行った。自立度の評価にはFIM(移動動作,トイレ動作,食事動作)を用い,意欲の評価にはわが国独自の指標であるVitality Indexを用いた。
【結果】
 FIMの結果,入所群では移動動作が4.81点,トイレ動作が4.04点,食事動作が5.62点であり,通所群では移動動作が4.63点,トイレ動作が5.38点,食事動作が6.28点であった。これらをMann-WhitneyのU検定を用いて統計処理した結果通所群,入所群間で有意差は認められなかった。次にVitality Indexの結果(10点満点法),入所群では1.88点,通所群では8.28点であり,Mann-WhitneyのU検定を用いて統計処理した結果,危険率0.01で有意差が認められた。
【考察】
 今回の研究では,介護度を絞り込んだ結果,FIMの点数において2群間では有意な差が認められなかったが,意欲に関しては入所群が有意に低下しているという結果を示した。意欲の結果においてこれだけの差が出た結果を分析するため,家族との同居・非同居について,主介護者についての調査との比較検討も行った。結果,通所群では32名全員が配偶者または家族と同居しており,入所群においても独居のものは2名だけであった。しかし,主介護者が配偶者であったのは,通所群が12名,入所群では1名と差が見られた。これらのことから,入所群における意欲の低下には配偶者が主介護者として存在しているかどうかが深く関わっていると推察される。同じ介護度,同じ程度の日常生活動作能力であっても,配偶者が主介護者の場合,居宅での介護が積極的に行われているが,配偶者がいない場合には入所介護に依存する傾向が高くなっている。
【まとめ】
 入所群の意欲低下には,配偶者を無くすと言う対象喪失による因子,それにより在宅での生活が遠ざけられてしまっているという環境因子とが,相乗的に影響していると考えられる。
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© 2004 日本理学療法士協会
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