主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】
慢性疼痛患者では疼痛回避のため、運動制限、ADLやQOLの低下が生じる。したがってROMの維持、筋力低下の防止などが理学療法の目的となるが、その効果は検証されていない。
近年、慢性痛のメカニズム解明のため、神経部分損傷動物モデルが多数報告されてきた。その一つである慢性絞扼(以下CCI)ラットは、痛覚過敏を生じるほか歩行や姿勢の異常についても報告されている。しかし、筋力低下や萎縮の程度など、筋に関する報告はほとんどない。そこで今回CCIラットを作成し、疼痛の有無を確認するとともに、筋の機能について調べた。
【方法】
本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て実施した。7週令のSD系雄ラット10匹をCCI群(5匹)とコントロール群(CON群、5匹)に分けた。CCI群は麻酔下にて左後肢大腿部で坐骨神経を剖出し、坐骨神経に腸糸を1mm間隔で4本緩く縛った。CON群は坐骨神経を剖出した後、縫合した。
疼痛評価にはVon Frey Hair変法(以下VFH法)を用い、CCI手術前1週から術後6週まで継続した。
手術6週後、麻酔下にて長指伸筋(以下EDL)、ヒラメ筋(以下SOL)、腓腹筋浅層(以下GS)を摘出し、直ちにEDL、SOLの筋湿重量を測定した。筋張力測定にはEDLを、ミオシン重鎖(以下MHC)アイソフォーム分析および筋小胞体Ca2+取り込み速度測定(以下SR速度)にはSOL、GSを用いた。
統計処理にはt検定(筋張力)、二元配置分散分析(VFH法)、一元配置分散分析(筋湿重量、MHCアイソフォームおよびSR速度)を用い、Bonferroni法で多重比較した。
【結果】
VFH法の触刺激に対する閾値は、CCI群で有意に低下した(p<0.01)。痛み刺激に対する閾値は、CCI群では施行3から5週後に低くなり(p<0.05)、CON群と比して有意に低下した(p<0.01)。
筋湿重量はCCI群の実験側で有意に減少した(p<0.01)。
筋張力はCCI群の実験側で有意に減少した(p<0.05)。
MHCアイソフォーム分析はSOLではCCI群実験側でMHC1dが発現した。GSでは実験側でMHC2bがMHC2dに移行した。
SR速度はSOL、GSともにCCI群実験側で有意に減少した(SOL:p<0.01、GS:p<0.05)。
【考察】
疼痛評価の結果からアロディニアや痛覚過敏が生じていることが確認できた。
筋張力は低下し、GSで遅筋化が生じ、SR速度も低下したことは、疼痛回避姿勢の保持による持続的な筋収縮環境に置かれることで生じた変化と考えられた。一方、遅筋であるSOLの速筋化、筋萎縮や張力低下には神経損傷が影響していると考えられた。
本モデルは疼痛や筋萎縮、筋力低下などを示しており、今後は理学療法の効果を検討していきたいと考える。