理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 438
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理学療法基礎系
足圧中心移動を制限した時の予測的姿勢制御の変化について
*齊藤 展士小野 憲吾渡部 和也
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抄録

【はじめに】
 予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment, APA)は自発運動や予測可能な外乱が加えられた状況で出現し,姿勢筋の筋活動や足圧中心の移動として観察される.また,目的動作のための主動作筋よりも早期に姿勢筋が活動するといった特徴を持ち,動作による身体の動揺を極力抑え,姿勢を安定化させるために働く.運動力学的には姿勢筋の活動により足圧中心(center of pressure, COP)を変化させることで体重心の移動を抑制する働きがあるとされている.APAのような動作に先立って姿勢を安定化させる機能を我々は備えているのだが,その働きの一つであるCOPの移動を制限した状態においても姿勢の安定化のためのAPAは出現するのであろうか.本研究は,COPの移動を制限した時のAPAの変化を調べることを目的とした.
【方法】
 7名の健常成人を対象とした.対象者はフォースプレート上で立位を保ち,両肩関節90°屈曲,肘関節伸展位とし両手で重錘(体重の5%)を把持した.その後,2種類の条件下で重錘から手を離した.1)全足底を床に接地した状態で重錘を離す(通常課題).2)足底の前部60%が接地可能な状態で重錘を離す(制限課題).各々の課題で10回施行した.筋電図として前脛骨筋,腓腹筋,大腿直筋及び大腿二頭筋の筋活動を導出した.また,ポテンショメーターを用いて重錘を離す時の上肢の動揺を,フォースプレートからCOPを記録した.課題間での比較のため統計学的検討としてT検定を行った.危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】
 重錘を離す前のCOPの前後位置は両課題ともに踵から約50%の位置でほぼ同じであり,この位置から通常課題でCOPは後方に約4cm移動したが,制限課題での後方移動はほとんどなくCOP後方移動は制限されていた.両課題で上肢の動揺には有意差が認められなかった.通常課題において重錘を離す直前の前脛骨筋と腓腹筋は相反性の筋活動様式を示したが,制限課題では同時収縮的な筋活動様式を示した.大腿直筋と大腿二頭筋は両課題とも相反性の筋活動様式を示したが,筋活動開始(抑制)時間が各課題で異なっていた.
【考察】
 APAの働きの一つであるCOPの予測的な移動を制限した時でもAPAは出現し,上肢の動揺に変化はなかった.このことから,APAは予測的なCOPの移動がなくても姿勢を安定化させることができるということが示唆される.制限課題では前脛骨筋と腓腹筋を同時収縮させることにより足関節のスティフネスを高め,姿勢を安定化させていると考えられる.また,大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動開始(抑制)時間にも課題間で差が認められたことから,姿勢の安定化に対するストラテジーが変化したと考えられる.

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© 2005 日本理学療法士協会
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