理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 440
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理学療法基礎系
第3鰓弓成分も表層に表れることがある
*荒川 高光寺島 俊雄シャーマ バンネヘカ矢部 勝弘本田 敦郎志賀 光二郎時田 幸之輔宮脇 誠鈴木 了千葉 正司熊木 克治
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抄録

【はじめに】
第2鰓弓に起源を持つ顔面神経は耳下腺神経叢において最尾側に頚枝を分枝する。顔面神経の頚枝は通常、広頚筋に枝を出しながら体節由来とされる頚横神経(通常は主に第3頚神経)と交通する(浅頚神経ワナ)。また、第3鰓弓に由来する舌咽神経は、成体では咽頭収縮筋の上部や茎突咽頭筋などに枝を出すが、表層の構造物には枝を出さないのが通常である。しかし、われわれは最も浅層の構造物である浅頚神経ワナに舌咽神経から出た細枝が交通するという稀な例に遭遇した。
【対象と方法】
2004年度新潟大学マクロ解剖夏期セミナーに供された解剖体(男性)において、浅頚神経ワナに加わる過剰な交通枝を発見したため、その詳細を肉眼解剖学的に検索した。
【結果】
顔面神経の頚枝は耳下腺を貫いたあと広頚筋のすぐ深層を前方へ走行しながら順次広頚筋へ筋枝を出していた。頚横神経は、第3および第4頚神経から起こり、胸鎖乳突筋の後縁をまわって同筋の表層を前方へと走行し、2ヶ所で顔面神経の頚枝と交通して浅頚神経ワナを形成していた。しかし、浅頚神経ワナの頚横神経寄りの神経束に、顔面神経の頚枝や頚横神経に属さない過剰な神経枝(過剰枝)が交通していた。過剰枝は顎二腹筋後腹の浅層(前方)を通るものと深層(後方)を通るもの2本の神経が合流して浅頚神経ワナに交通していた。過剰枝のうち顎二腹筋後腹の深層を通るものは、顎二腹筋後腹の深層に接して走行し、茎突舌筋と茎突咽頭筋の間に進入する舌咽神経からの過剰枝であることがわかった。また過剰枝のうち顎二腹筋後腹の浅層を通るものは外頚動脈に巻き付くような細枝となっていた。
【考察】
今回の例において、顎二腹筋後腹の深層を走行し、浅頚神経ワナに交通する過剰枝は舌咽神経成分であると考えてもよいであろう。しかし、浅頚神経ワナに交通する過剰枝のうち、顎二腹筋後腹の浅層を通る枝の由来について詳細が不明である。また顎二腹筋の深層を通る舌咽神経由来の成分の分布域についても未確定であり、実体顕微鏡下での検索を要する。今回と同様の報告はKawai (1994)の報告例のみである。Kawaiはその報告の中で、浅頚神経ワナに交通する舌咽神経の過剰枝を、第3鰓弓腹側成分(Ballard, 1964)が遺残した形態と考察した。今回の例は検索の余地を残しているためKawaiと同様の考察には至らない点があるが、浅頚神経ワナに舌咽神経成分が混在することは明らかであり、第3鰓弓成分が最も表層の構造物の形成に何らかの形で関わっていると考えられる。

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© 2005 日本理学療法士協会
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