理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 442
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理学療法基礎系
圧縮刺激に対する立位静的バランスの反応
*原 洋也山崎 敦久保下 亮
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抄録

【目的】立位時の静的バランス能力には,腓腹筋やヒラメ筋といった抗重力筋の活動が大きく関与する。失調症などにより姿勢制御機構に障害が生じている場合,関節に対する圧縮刺激は動作の安定性を高めることが知られているが,パフォーマンス変化の検証は報告されていない。我々は,圧縮刺激による静的バランス反応に着目し,健常成人を対象に重心動揺計を用いて研究を行った。
【対象と方法】対象は健常成人26名(男性5名,女性21名)で,平均年齢70.0歳,平均身長154.2cm,平均体重51.9kgであった。重心動揺の測定には,アニマ社製重心動揺計グラビコーダーGS-10を使用した(サンプリング周波数20Hz)。床面に重心動揺計を設置し,閉眼にて基本的立位肢位をとらせた。立位姿勢が安定した後,閉眼にて60秒の重心動揺を測定しデータ1とした。その直後,左右の肩甲帯に各1.5kgの重錘を負荷し,同条件にて60秒の重心動揺を測定し,データ2とした。解析項目は,総軌跡長,外周面積,矩形面積として,検定には対応のあるt検定を用いた。
【結果】総軌跡長はデータ1:151.0cm,データ2:115.3cmで有意に減少した(p<0.001)。また,外周面積はデータ1:6.6cm2からデータ2:4.7cm2と有意に減少した(p<0.05)。矩形面積はデータ1:17.9cm2からデータ2:12.2cm2と有意に減少した(p<0.01)。
【考察】肩甲帯からの圧縮刺激後に,重心の総軌跡長や外周面積,矩形面積が減少した結果より,圧縮刺激による静的バランス反応の向上が伺われた。静的バランス能力に寄与する身体機能には,体幹-下肢における抗重力筋の協調的な活動が必要とされる。二足歩行を行う能力を有するヒトに対して,立位での圧縮刺激は椎間関節や下肢の各関節に対しても影響を及ぼすと推測される。柳沢らにより,関節への圧縮刺激は固有受容器の情報量を増加させ脊髄前角細胞の興奮を高める事が証明されており,圧縮刺激により抗重力筋の同時収縮の活動性が増した事も示唆された。また,圧縮刺激は筋感覚受容器へも作用することが推測されるが,筋受容器への情報量増加が筋活動の促通につながるメカニズムは未だ不明な部分が多い。肩甲帯からの圧縮が関節や筋の受容器への刺激でなく,その他の受容器にも作用したことも否めず,検証の余地を残している。
【おわりに】今回は,圧縮刺激による立位静的バランスのパフォーマンス変化に対し,重心動揺計を用いて検討した。しかし,圧縮刺激による生理的反応については見解を得ていないため,今後の課題としたい。また日常の生活においては,静的バランス能力より動的バランス能力を求められる機会が多い。そのため,圧縮刺激の動的バランスへの影響や失調症に対する反応についても研究を進めたい。

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© 2005 日本理学療法士協会
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