抄録
【目的】動作分析から考案した頸部ジストニア患者に対する新しい装具療法の考え方および装具療法により動作時頸部偏倚が著明に改善した症例を紹介する。
【頸部ジストニアの装具療法の考え方】頸部ジストニア患者は、頸部偏倚だけを装具で固定して修正しても、根本的な症状の解決にはならない。適切な装具療法を行うためには、動作分析により頸部ジストニアの不随意運動が引き起こしている障害を分析することが大切である。このような動作分析より、頸部偏倚が出現する要因となる問題点を改善する目的で最小限の装具を処方することが大切である。
【症例紹介】症例は、重度の頸部左回旋を認める平成15年12月発症の頸部ジストニア患者(女性、26歳)である。平成16年3月4日に関西鍼灸大学附属診療所神経内科に来院された。初回評価時における安静座位の頸部偏倚は、重度左回旋、伸展、右側屈を認め、歩行のような動的な場面で頸部偏倚が増強される傾向にあった。また、頸部偏倚に先行して左大胸筋の筋緊張亢進にともなう不随意運動により左肩甲帯屈曲と左肩関節屈曲・内転を生じた。同時に上部体幹には軽度右回旋偏倚を認め、腰背筋筋緊張亢進による腰椎前弯により姿勢を保持していた。
【本症例に対するジストニア装具とその効果】本症例には今回のジストニア装具について説明し、装具作成に同意を得た。本症例に対するジストニア装具作製のポイントは以下のようである。左肩甲帯屈曲と左肩関節屈曲・内転をともなった上部体幹の軽度右回旋偏倚を「肩甲帯―体幹矯正ベルト」により抑制した。この「肩甲帯―体幹矯正ベルト」の特徴は、肩甲帯を外後方に牽引することによって、左大胸筋の筋緊張を抑制し左肩関節伸展・外転に誘導するとともに上部体幹を軽度左回旋方向に誘導した。その結果、体幹を正中位に戻すことができただけでなく、頸部肢位にも改善を認めた。頸部に対して更なる改善を目的に、フィラデルフィア装具の前面部を外した後面部のみの装具を処方した。この理由は、前面部が下顎を支えることによって頸部右前面の皮膚短縮が増強することを予防するためである。また同時に、左腹筋筋緊張を増加させ、腰背筋筋緊張を抑制するために、簡易コルセットを用いて腹圧を高めて腰椎前弯を矯正した。さらに、フィラデルフィア装具の後面部からY字ストラップをつけて下端をダーメンコルセットに取り付け、ストラップを折り返すことでさらに腹圧を高めた。装具装着により立位姿勢での頸部偏倚は軽減し、動作時における頸部偏倚の増強は認められなくなった。装具を外した場合の頸部肢位も装具処方以前より改善した。
【まとめ】動作分析を行い、頸部偏倚の要因を解決するように作製したジストニア装具は肢位改善に有効なだけでなく、動作場面の頸部偏倚の軽減にも役立つことがわかった。