抄録
【目的】
寛骨臼回転骨切り術(以下、RAO)は、文字通り寛骨臼を骨切りし回転させて臼蓋を移動するものである。臼蓋の回転による関節包や靭帯の緊張の変化が、関節位置覚を混乱させて身体図式の形成を阻害し、動作能力を低下させている可能性が示唆される。特に股関節は下肢先端部の方向決定に寄与する部分が大きく、位置感覚のズレが歩行などの身体運動に及ぼす影響が大きい。そこで、本研究ではRAO症例の関節位置感覚がどのように混乱しているのかを調べたのでここに報告する。
【対象と方法】
対象はRAO症例8名(女性8名、平均年齢50.3歳)とした。コントロール群は健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢20.5歳)。
方法は被験者の体表に赤外線反射マーカを貼付し、閉眼した背臥位で股関節の任意の角度から他動的に内転運動を行った。足底が自分の身体の中心線上に配列したと感じた時点で手元のスイッチを押させ、この時の足底中心位置と身体中心線とのズレ(以下、DCL)を三次元動作解析装置ICON612(VICON MOTION SYSTEM社)によって計測した。尚、足底中心位置は踵中央とし、身体中心線は身体重心と頭部中央を結ぶ線の延長線とした。また、DCLは身体中心線と足底中心位置が交わる点を原点として、腹背側方向、内外側方向の距離を算出した。被験者に押させるスイッチは三次元動作解析装置に同期して取り込んだ。計測は10回行い、各方向のDCLの平均値を健常者と比較した。
【結果】
健常者のDCLは、腹側方向に3.1±2.1cm、内側方向に2.3±3.1cmであったのに対して、RAO患者のDCLは、腹側方向に6.1±4.1cm、内側方向に5.3±3.8cmであった。これらより、RAO症例では腹側と内側方向へDCLが大きくなる傾向にあった。
【考察】
RAO症例の関節位置覚は、屈曲-内転-内旋方向へ変位する傾向にあった。RAOでは臼蓋を骨頭に対して外側-前方-内向きに回転させる。RAOにおける臼蓋の回転は、関節包や靭帯が寛骨に付着している場所の外側で骨切りをして行われため、臼蓋の回転と骨頭の内方化が同時に起きなければ、関節包や靭帯の緊張状態が伸展-外転-外旋位おかれた状態と同じ緊張状態となり、実際の股関節角度と異なった認識をしてしまうことになるものと推察される。骨頭の内方化がおきるためには、骨頭と臼蓋との相対的位置関係が変化しなくてはならない。骨頭の内方化とは、中間位における骨頭と臼蓋との相対的位置関係が、伸展-外転-外旋位に変化することによって実現されるのである。骨頭と臼蓋の新しい位置感覚を再学習しなくては、骨頭の内方化は実現できず、こうした身体図式の混乱をきたすものと考察される。