理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 689
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内部障害系理学療法
食道癌根治術後の早期離床における循環動態についての1症例
―術後の循環血液量に着目して―
*垣添 慎二井原 隆昭末原 伸泰江西 一成
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抄録

【はじめに】食道癌根治術は手術侵襲が大きく手術時間も長いため術中の輸液量も多くなり、術後『refilling(third spaceからの水分の戻り)』が生じ易い。またリンパ節広範囲郭清・術後疼痛・ストレス等による交感神経過活動により術後循環動態も不安定となり易い。この時期の心機能への過負荷は回避しなければならないが、早期離床を進めていく上である程度の負荷は避けて通れない。しかし食道癌根治術後の早期離床と循環動態に関する知見は認められない。そこで当院にて食道癌根治術後の理学療法を実施した1症例において早期離床と循環動態の関係について検討したので報告する。
【症例・経過】57歳女性、術前BMI:20.9、アルブミン:4.5g/dl、6MD:415m、病期StageIII、食道亜全摘術(右開胸開腹頸部操作・胸骨後胃管再建)・3領域リンパ郭清施行、手術時間:460分、術中出血量:230g。術後2日目発作性頻脈を認め輸液が負荷された。術後3日目より呼吸・座位訓練開始。しかし座位時ふらつき感・動悸(130/分以上)を認めた。また安静時にも発作性頻脈を認め、術後5日目まで同様の訓練を継続した。術後3日目の中心静脈圧値(CVP)は2mmHg、4日目は5mmHg。術後6日目座位時自覚症状消失、HR90/分台となり発作性頻脈の出現も認めないため立位・足踏み訓練を開始。翌7日目より歩行開始。術後21日目まで理学療法継続し22日目退院。退院時6MD:308m。術当日から術後5日目までの輸液量は7314ml、2200ml、2150ml、2010ml、3314ml、1900ml、排液量は3939ml、1972ml、2683ml、4640ml、2965ml、1790mlであった。
【考察・まとめ】『refilling』は術後24~48時間で生じ、循環血液量増加による右心負荷亢進から上室性不整脈を生じ易い。また尿量増加とCVP高値も示すとされている。本症例では術後3日目に排液量がピークに達し既に『refilling』発生が推測できるが、CVP値は低値を示した。これは術後3日目の輸液・排液量バランスが-2630mlであった事から、予測輸液量(当院では『refilling』を予測し術後の輸液は少なめに管理)よりも排液量が上回り循環血液量が過少状態になったためと考えられる。このように術後の循環動態は不安定となり易く、この時期の早期離床に伴う心機能への過負荷は更なる循環器合併症を引き起こす可能性がある。本症例では過少となった循環血液量を補正するため術後3、4日目に輸液負荷の処置が取られ、循環動態が安定する5日目まで心機能に過負荷が生じないよう座位訓練までとした。以上より食道癌根治術後の理学療法において早期離床を進めていく上で「心機能への過負荷」という観点から循環動態の把握は重要であった。従って、早期離床に際してはVital signや自覚症状に加え、輸液量・排液量・不感蒸泄量・CVP値等から循環血液量の変動を把握する必要があると考えられた。

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© 2005 日本理学療法士協会
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