理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-04-2
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口述演題
慢性腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展運動時の背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスとの関係
末廣 忠延石田 弘小原 謙一藤田 大介大坂 裕渡邉 進
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抄録

【はじめに,目的】

腰椎骨盤の安定性評価の中には,腹臥位での股関節伸展運動が挙げられ,腰痛者では股関節伸展時に脊柱起立筋(ES)の過活動や対側ESと両側の多裂筋(MF)の活動遅延が報告されている(Kimら 2013,Suehiroら2015)。前回,我々は脊柱の安定化機構の機能不全の徴候とされる腰部の臨床不安定性と背部筋の活動開始時間との関係を報告し,臨床不安定性を有する慢性腰痛者は股関節伸展時の両側MFと対側ESの活動遅延が生じ,これが腰椎骨盤の不安定性の原因の1つであることを示した。しかし,慢性腰痛者における臨床不安定性と股関節伸展時の筋活動量との関係,臨床不安定性と背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスとの関係については,明らかとなっていない。そこで本研究の目的は,慢性腰痛者における臨床不安定性と股関節伸展時の背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスとの関係を明らかにすることとした。

【方法】

対象は慢性腰痛者25名とした。臨床不安定性試験としてspring test,prone instability test,腰椎屈曲時の異常な動きを評価した(Hicksら 2005)。股関節伸展運動は,腹臥位にて一側の股関節を0°から10°まで伸展し5秒間保持した。股関節伸展時の筋活動の測定には,表面筋電計を用い,被験筋は両側ES,MF,股関節伸展側の大殿筋(GM),半腱様筋(ST)とした。得られた積分筋電値は最大下随意収縮にて正規化した(%)。また背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスの指標として(同側ES×2)/(GM+ST),(対側ES×2)/(GM+ST),(同側MF+対側MF)/(GM+ST)を算出した。臨床不安定性試験の陽性数と各筋群の筋活動量との関係,臨床不安定性試験の陽性数と背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスとの関係をSpearmanの順位相関係数にて検討した(p<0.05)。

【結果】

臨床不安定性試験の陽性数[中央値(四分位範囲)]は,2(1-3)であった。同側ES,対側ES,同側MF,対側MF,GM,STの筋活動量[中央値(四分位範囲)%)]は,47.3(40.3-60.8),65.7(55.1-71.4),62.9(58.8-72.1),65.7(50.7-77.8),69.0(53.4-99.6),15.6(9.5-25.7)であった。(同側ES×2)/(GM+ST),(対側ES×2)/(GM+ST),(同側MF+対側MF)/(GM+ST)の背部筋・股関節伸筋群の筋活動バランスは,1.1(0.8-1.7),1.6(1.0-2.1),1.4(1.1-1.9)であった。臨床不安定性試験の陽性数と各筋活動量および(同側ES×2)/(GM+ST)との間には有意な相関を認めなかった。臨床不安定性の陽性数と(対側ES×2)/(GM+ST)および(同側MF+対側MF)/(GM+ST)との間には有意な負の相関を認めた(rs=-0.42,rs=-0.43)。

【結論】

臨床不安定性試験の陽性数が多い程,股関節伸筋群に対する対側ESと両側MFの活動比が低下することが明らかとなった。MFは腰部の分節的安定性に関与し,股関節伸展時の対側ESは,伸展側の骨盤の腹側への回旋モーメントに拮抗する。そのため,これらの相対的な筋活動の低下は腰椎骨盤の不安定性の原因となる可能性が示唆された。

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© 2017 日本理学療法士協会
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