理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-06-2
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口述演題
腰部脊椎症に罹患した高齢者における腰背筋断面積の性差の違いと転倒スコアとの関連
伊藤 忠酒井 義人山﨑 一德山田 彩加五十嵐 知真及川 真人森田 良文
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抄録

【はじめに,目的】

高齢者の転倒は,骨折などを生じた場合,身体機能低下の主要な原因となる。これまで,多くの疾患に関する転倒危険因子が同定されてきた。一方で,脊椎弯曲角度と転倒との関連が明らかにされたが,脊椎脊髄疾患に罹患した高齢者の転倒と腰背筋断面積,体幹筋力,アライメントなどとの関連は明確ではなかった。また,性差の違いについても十分な検討がなされていない。本研究においては,腰部脊椎症の高齢者を男女に分類し,転倒と体幹機能との関連を検討した。

【方法】

腰部脊椎症と診断され入院中の65歳以上の高齢者149名のうち,すべての試験を遂行できた132名(年齢75.2±5.0歳,男性75名,女性57名)を対象とした。腰背筋断面積(L1/2,L4/5高位,脊柱起立筋・腰部多裂筋)・Sagittal Vertical Axis(SVA)(SYNAPSE,富士フイルムメディカル株式会社),Skeletal Muscle Mass Index(SMI)・L2-4腰椎骨密度Young Adult Mean(YAM)(Lunar DPX-NT,GEヘルスケア・ジャパン株式会社),Roland-Morris Disability Questionnaire(RDQ),転倒スコア,背筋力,年齢,身長,体重を測定し,男性と女性に対象者を分類しt検定を用いて群間比較を行った。転倒との関連について,転倒スコアを従属変数,有意差が認められた変数を独立変数とした,ステップワイズ法による重回帰分析を男性と女性に分けて行った。また,調整変数は過去1年間の転倒経験の有無とした。危険率5%未満を有意とした。

【結果】

脊柱起立筋断面積(L1/2:男性3162.5±667.7mm2,女性2246.8±535.1 mm2,L4/5:男性1994.9±453.6mm2,女性1662.6±408.9 mm2),腰部多裂筋断面積(L1/2:男性340.5±79.0mm2,女性260.5±82.2 mm2,L4/5:男性1090.9±303.1mm2,女性766.8±240.4 mm2)で有意差が認められた(各々p<.001)。SMI(男性7.1±1.0kg/m2,女性6.1±1.0kg/m2,p<.001),YAM(男性111.3±23.4%,女性92.4±16.7%,p<.001),転倒スコア(男性4.8±2.9点,女性6.1±3.2点,p<.05)背筋力,身長,体重においても有意な群間差が認められた(各々p<.001)。男性の回帰係数は,過去1年間の転倒経験(β=.66,p<.001)で有意だった。女性の回帰係数は,過去1年間の転倒経験(β=.75,p<.001)とL1/2腰部多裂筋断面積(β=-.20,p<.05)で有意だった。

【結論】

本研究の結果から,腰部脊椎症の男性・女性高齢者において過去1年間の転倒経験が,転倒リスクを向上させる可能性が示された。一方で,女性高齢者はL1/2腰部多裂筋断面積の萎縮も転倒リスクに関係があることが確認された。このことから,女性高齢者の転倒リスクを評価する場合,他の体幹機能の評価よりもL1/2腰部多裂筋断面積の評価が有益な指標のひとつであると考えられた。ただし,本研究は横断調査であるため,今後L1/2腰部多裂筋断面積の萎縮が転倒発生と関連するかを明らかにする必要がある。

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© 2017 日本理学療法士協会
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