理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-10-6
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口述演題
関節軟骨変性過程における関節不安定性と骨棘形成の関連
村田 健児国分 貴徳鬼塚 勝哉藤原 秀平中島 彩森下 佑里藤野 努高柳 清美金村 尚彦
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抄録

【はじめに,目的】

ヒトは,関節の「緩さ」や「硬さ」といった身体的特徴が,運動器疾患の発症に関連することを経験的に理解している。我々は,関節の「緩さ」を関節不安定性と定義し,関節軟骨の変性に関節不安定性が寄与することを実験的に報告した。しかし,関節不安定性が軟骨変性メカニズムに及ぼす一連の応答機構についての理解は十分でない。近年の報告では,滑膜に近接する軟骨辺縁部の骨棘は,関節不安定性によって増進し,関節軟骨の変性を促進することが報告されている。このことから,関節不安定性を制動した場合,骨棘形成を抑制し,軟骨変性を予防できると仮説をたて,実験的に検証した。

【方法】

10週齢Wistar系雄性ラット56匹を,ACL断裂による関節不安定群(ACL-T群,22匹),関節不安定性を制動した群(CAJM群,22匹),介入は行わないコントロール群(INTACT群,12匹)の3群に分類した。術後2,4週目で膝関節を採取し,軟X線を用いて本モデルの関節不安定性を検証した。骨棘の評価は,軟X線を用いたOprenyeszkらの方法(2013),組織学的分析はKanekoらの方法(2014)で評価した(大きさと成熟度を0-6点で構成,点数が高いほど骨棘形成が進行)。また,滑膜における骨棘形成に関連する因子(BMP-2VEGFTGF-β)のmRNA発現量について,リアルタイムPCRを用いて検証した。関節軟骨は,インディアンインクによるUdoらに手法(2015)による観察的分析(0-5点で構成,点数が高いと変性が著しい),サフラニンO・ファストグリン染色を用いた組織学的分析(OARSIスコア:0-24点で構成,点数が高いと変性が著しい)で評価した。統計解析は,一元配置分散分析(Tukey法)またはKruskal-Wallis test(Bonfeffoni補正)を行った。また,組織学的な骨棘形成スコアと関節不安定性量について,Spearmanの相関係数を算出した。統計的有意水準は5%未満とした。

【結果】

関節不安定性を示す脛骨前方引出し距離は,2週目時点でINTACT群に比較して,CAJM群は1.8倍,ACL-T群は4.8倍であった(p<0.001)。4週目時点では,INTACT群に比較して,CAJM群は2.6倍,ACL-T群は6.1倍であった(p<0.001)。骨棘は,4週目時点のACL-T群でINTACT群に比較して,有意に高い値であった。組織学的スコアでも,INTACT群に比較して,CAJM群は2.4倍,ACL-T群は3.5倍と有意にACL-T群で高値を示した(p<0.001)。滑膜におけるmRNA発現量はACL-T群においてBMP-2で3.25倍と有意に高い値を示した。組織学的な骨増殖体と関節不安定性の相関係数は0.625であった(p<0.001)。軟骨については,4週目時点のOARSIスコアは,INTACT群に比較して,CAJM群は2.0倍,ACL-T群は10.2倍高値であった(p<0.001)。

【結論】

関節不安定性を制動することで,滑膜における骨棘形成因子を抑制し,膝関節の骨棘抑制,軟骨変性を低減した。すなわち,関節不安定性を呈する症例は,変形性膝関節症進行予防のために関節の不安定性を軽減させる必要がある。

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© 2017 日本理学療法士協会
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