理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-15-1
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口述演題
THA後5か月で靴下着脱動作を可能とするには術前における動作の獲得が鍵である
木下 一雄桂田 功一吉田 晃啓青砥 桃子臼井 友一岡道 綾樋口 謙次中山 恭秀安保 雅博
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抄録

【はじめに,目的】

我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作に関与する因子の検討を行ってきたが,変形性股関節症例(以下OA)に限定し,股関節以外の因子として上肢長や疼痛の影響を加味した検討が課題であった。そこで本研究ではOAに対するTHA後5か月における靴下着脱動作の可否に関与する因子を明らかにし,術前後における具体的な目標値を提示することを目的とした。

【方法】

対象は2013年の4月から2015年12月までに本学附属4病院にて初回THAを施行した101例104股(男性13例,女性91例 平均年齢66歳)とし,除外基準は中枢疾患や術後合併症を呈した症例とした。調査項目は年齢,BMIと術前,退院時(術後平均18.2日),術後2か月時(2M)の股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100),靴下着脱時の疼痛(VAS),膝関節屈曲制限の有無,足関節背屈制限の有無,上肢長,術前および術後5か月時(以下5M)の端座位開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。統計学的処理は対象を靴下着脱可否によりを可能群と不可能群に分類し,各時期の調査項目を2群間で比較し有意差が認められた項目を説明変数とし,5M時における靴下着脱の可否を目的変数としたロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った。有意水準はいずれも危険率5%未満とし,有意性が認められた因子に関してROC曲線を用いて目標値を算出した。

【結果】

5M時の靴下着脱の可否は可能群88股,不可能群は16股であった。2群間における各時期の調査項目の比較では,術前,退院時,2Mの屈曲,外旋,外転,踵引き寄せ距離,2M時の疼痛,術前の靴下着脱の可否において有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,5M時の靴下着脱の可否に関与する因子として,術前の股関節外旋と退院時の外転,術前の靴下着脱の可否が抽出された。オッズ比(95%信頼区間)は術前の外旋は0.88(0.81-0.96),退院時の外転は0.77(0.65-0.91),術前の靴下着脱の可否は2.72(1.12-6.58)で,判別的中率は88.0%であった。ROC曲線の結果より,それぞれの目標値,感度,特異度,曲線下面積は,術前の外旋は27.5°,64.8%,86.7%,0.81で,退院時の外転は17.5°,62.5%,86.7%,0.77であった。

【結論】

本研究の結果より保険診療算定期間の限度である5Mまでに靴下着脱動作を獲得するには,術前から開排位での靴下着脱を獲得していることが望ましい。また入院期間が短縮していくなかで股関節の外旋や外転の可動域が目標値以上となるように術前から介入および指導していくことが重要である。

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© 2017 日本理学療法士協会
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