理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-18-1
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口述演題
回復期リハビリテーション病棟においてBIA法を用いた大腿骨近位部骨折患者の体成分と退院時の歩行能力との関連
池上 泰友
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抄録

【はじめに,目的】

大腿骨近位部骨折は予後不良で寝たきりになる可能性のある疾患であり,手術前から低栄養状態である患者が半数以上いることが報告されている。このことより,大腿骨近位部骨折患者の身体状態を把握するためには入院時から体成分を検討する必要があると考える。近年,体成分の分析に生体インピーダンス法(Bioelectrical impedance analysis:BIA法)が考案され,臨床で非侵襲的に評価を行うことが可能となった。しかし,これまでにBIA法を用いた大腿骨近位部骨折患者の体成分に関する報告は少ない。そこで今回,回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)においてBIA法を用い大腿骨近位部骨折患者の体成分と退院時の歩行能力との関連について検討した。

【方法】

対象は2016年1月~9月までに大腿骨近位部骨折により回復期リハ病棟に入院した78名のうち,データー欠損者,65歳未満の者を除く61名(男性10名,女性51名,平均年齢83.5±7.1歳)とした。歩行自立の定義は「歩行補助具の使用は制限せずに安全に50m以上の歩行が可能」とし,退院時に介助なしに歩行が可能な者を自立群,介助が必要な者を非自立群に分類した。調査項目は年齢,手術後入院期間,体成分として基礎代謝量,骨格筋量,下肢筋量,タンパク質量,体細胞量とした。体成分は体成分分析装置(In Body社製,S10)を用いて入院時に測定した。解析は目的変数に歩行自立の可否,説明変数に単変量解析により有意であった変数を投入したロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った。また,有意に抽出された変数においてはROC曲線を作成し,カットオフ値を算出した。

【結果】

歩行自立群は41名(平均年齢81.4±7.1歳),非自立群は20名(平均年齢87.0±5.9歳)で有意に非自立群の年齢が高かった(p<.01)。単変量解析によって抽出された説明変数は基礎代謝量(p<.05),骨格筋量(p<.05),下肢筋量(p<.05),体細胞量(p<.01)であり,いずれも自立群が有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果,体細胞量(OR 0.79,95%CI 0.65 -0.97)が有意な変数として抽出された(p<.01)。モデルの判別的中率は65.6%であった。体細胞量のROC曲線の曲線下面積は81.7%であり,最も有効なカットオフ値は19.0kg(感度55.3%,特異度78.2%)と判断できた。

【結論】

回復期リハ病棟における大腿骨近位部骨折患者の体成分を検討し,体細胞量が退院時の歩行能力に関連していることが示唆された。体細胞量は細胞内水分量とタンパク質量を合計した筋肉量で細胞外水分量は含まれておらず浮腫の影響を受けにくいと報告がある。一方,骨格筋量,下肢筋量は細胞外水分を含んだ測定値となるため浮腫の影響を受けた可能性が考えられる。したがって,手術後の炎症症状の残る時期において大腿骨近位部骨折患者のBIA法を用いた評価では,体細胞量が歩行自立可否の判断に有用であると考えた。

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