理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-RS-04-1
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口述演題
COPD患者における肺高血圧症と気腫病変の関係性
心臓超音波検査とCT上での検討
大場 健一郎田中 雄也山本 振一郎金田 瑠美津田 徹
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抄録

【はじめに,目的】

肺高血圧症(以下PH)はCOPDの主要な合併症であるが,その診断は専門家が行う右心カテーテル検査が必要である。最近では,ガイドラインにて非侵襲的に行える心臓超音波検査(以下UCG)によるスクリーニング検査を推奨している。COPDの気腫化と右心カテーテルでの平均肺動脈圧との関連性の報告はあるが,UCGにより求められる三尖弁圧較差(以下TRPG)との関連性をみた報告はない。

今回の目的はTRPGと気腫化の関連性の検討とUCG上PHが疑われるTRPG≧32mmHgとなるLAV%とLAAのカットオフ値を判別することである。

【方法】

2014年から16年までに当院にて入院呼吸リハプログラムを実施したCOPD患者183名のうち肺機能検査,CT,UCGを同時期に行ったものを選択しカルテより後方視にて調査を行った。評価項目は年齢,性別,身長,体重,肺機能検査(VC,%VC,FEV1.0,%FEV1.0),CTにて全肺野の低吸収領域体積(以下LAV%)と低吸収域(以下LAA),UCGで左室駆出率(以下EF),左室拡張能(E/E'),TRPGのデータを収集した。

LAAはGoddard法を用いて上肺野,中肺野,下肺野それぞれの領域を0から4点でスコア化し,計24点満点で重症度を評価し軽症群,中等症群,重症群の3群に分類した。

統計方法はTRPGとLAV%とLAAの相関関係をSpearmanの順位相関係数,LAAの重症度別でのTRPGをKruskal-Wallis検定にて検討した。LAV%とLAAのカットオフ値はROC曲線を用いて算出した。すべての統計結果はp<0.05を有意水準とした。

【結果】

183名中70名を解析した(男性:53名,年齢:77.8±8.1歳,BMI:19.8±3.7kg/m2,%FEV1.0:37.2±21.8%,TRPG:30.9±8.0mmHg,EF:67±10%,E/E':7.9±2.5)。TRPGとの関連性においてLAV%(r=0.600),LAA(r=0.552)で相関関係を認めた。群間比較では重症群のTRPGが軽症群,中等症群のTRPGより有意に高かった(軽症vs重症:26.1±5.9mmHg vs 39.4±7.2mmHg,中等症vs重症:29.4±6.3mmHg vs 39.4±7.2mmHg p<0.001)。LAV%のカットオフ値は32.0%,LAVスコアのカットオフ値は13.5点であった。

【結論】

PHは2/3以上の有効肺血管床が破壊することで上昇すると言われている。今回の結果でもLAAの群間比較から軽症群,中等症群に比べ重症群ではTRPGが有意に高かった。しかし,TRPGとLAV%,LAAに相関関係が認められたことから2/3以上の破壊がなくとも徐々に肺動脈圧が上昇している可能性もある。LAV%のカットオフ値も32%であったことから肺血管床の破壊は約1/3のみであった。COPDの肺動脈圧の上昇は肺気腫だけでなく低酸素血症や肺血管リモデリングの要因や増悪を契機に肺動脈圧が上昇することも知られている。気腫化が30%以上のCOPD患者に対しては心肺機能を総合的に評価し低酸素血症を起こさないためのADL指導や適切な酸素療法に加え,増悪予防の知識や禁煙等の患者教育を含めた包括的なリハプログラムが必要である。

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© 2017 日本理学療法士協会
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