理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-NV-25-3
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視覚情報処理と視覚運動変換プロセスの分析による失行症例の無反応の病態把握
西川 咲河野 正志高村 優作今西 麻帆市村 幸盛富永 孝紀
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キーワード: 失行, 無反応, 視覚運動変換
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抄録

【はじめに,目的】

失行症の症状の一つである無反応は,視覚性注意などの視覚情報処理段階と,視覚情報から運動へ変換する段階のどちらが障害されても起こりうる可能性があり,どの段階の機能停滞が原因であるか分析することは,介入する上で重要であると言える。今回,失行症状の中でも主に無反応を認めた症例に対し,視覚処理と視覚運動変換の2段階を評価した上で下肢の運動発現への介入を行ったため,以下に報告する。

【方法】

症例は,左線条体梗塞BADにより右片麻痺を呈した80歳代男性であった。既往に左運動領域,後頭葉~側頭葉の広範な梗塞を認め,入院前は食事・トイレへの歩行以外は椅子に座り過ごしていた。発症1か月半後の下肢Br.stageはIII(股関節屈曲困難)で,感覚は精査困難であり,全般的な注意障害,失行症,全失語を呈していた。失行の評価として標準高次動作性検査(以下SPTA)を行った結果,全誤反応得点(失語・麻痺を除く)は84点,うち無反応の割合は44.9%であった。視覚処理と視覚運動変換の評価としてアイトラッカー内蔵型タッチパネルPCを用いた選択反応課題を実施した。PC画面上にランダムな順序で10秒間点滅する35個(縦7列,横5行)のオブジェクトを0.1秒注視し選択する課題(視覚課題)と左示指にて選択する課題(視覚運動課題)を実施した。全オブジェクトの平均反応時間は,視覚課題が8.5秒,視覚運動課題が6.5秒であった。ADLにおいては,移乗時には柵やフットレストなどへの視覚誘導が必要で,視覚情報に注意が向けられたとしても運動は発現されにくく,行為・動作の中断や無反応を多く認めていた。選択反応課題・ADLの評価から視覚処理・視覚運動変換ともに障害されていることが考えられた。そこで今回,歩行獲得やフットレストへ足を乗せる動作の無反応軽減を図る目的で,まずは股関節屈曲運動を引き出すために視覚運動変換に対する課題を実施した。内容は視覚情報が少ない設定で段階的に提示した高さ3・6・9cmの台の視覚情報から,台に足を乗せるという動作を通じて股関節屈曲運動へと変換する課題とし,1日20分,2週間実施した。

【結果】

Br.stageはIIIからIVへと改善し股関節屈曲が可能となった。選択反応課題では,視覚課題が8.5秒から7.1秒,視覚運動課題が6.5秒から3.1秒へと改善を認めた。SPTAは全誤反応得点が84点から75点,うち無反応の割合が44.9%から32.7%へと改善を認めた。ADLではフットレストへ足を乗せる動作や移乗時の足の踏みかえなど協力動作が得られるようになった。

【結論】

本症例は,脳画像から前頭-頭頂葉の連絡線維損傷により全般的な注意機能が低下し,視覚処理の低下を認めており,既往の運動領域の損傷から視覚運動変換も障害され,無反応という症状が出現していることが考えられた。今回,SPTA・ADLで無反応が軽減したことは,選択反応課題の結果から視覚運動変換段階の改善によるものと考えられた。

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