理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-TK-16-3
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外来慢性疼痛患者の疼痛強度における社会的因子の影響
若田 哲史
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抄録

【はじめに,目的】慢性腰痛は,ヒトの生活の質(Quality of like;以下,QOL)の著しい低下につながる症状として社会的問題となっている。腰痛ガイドラインによると,慢性腰痛は我が国において85%は原因不明の腰痛であり,その多くが心理・社会的因子による。QOLとの関係においては,社会的ネットワークの規模が健康に影響し,地域住民にとって家族や親戚,友人・知人との結びつきが関係することが報告されている(Kawachi, 2008,石川,2009)。さらに経済的状況,およびそれに関する心理的影響も,地域住民の健康に影響する。(Runciman, 1966)。しかし,慢性腰痛と心理・社会的因子の関係について調査した報告は少ない。本研究では,それらを明らかにするための調査を行った。

【方法】当施設に外来通院する日常生活の自立している患者のうち慢性腰痛を有する35名を抽出し,質問紙調査を行なった(男性17名,女性18名,平均年齢±標準偏差:72.4±9.5)。質問項目は①腰痛の主観的強度②鬱の程度について③健康関連QOLについて④社会的交流⑤経済的状況⑥地域の行事や娯楽施設などインフォーマルな社会資源の利用頻度⑦医療機関などフォーマルな社会資源の利用頻度とした。統計解析では,Spearmanの順位相関係数を用いて①と②~⑦との相関を求めた。

【結果】①腰痛の主観的強度は,③健康関連QOLの下位項目である体の痛み・全体的健康感との間に負の相関が認められた(r=-0.654,p=01000;r=-0.5,p=0.002)。また①腰痛の主観的強度は⑤経済的状況の下位項目である貧困感との間に正の相関が認められた(r=0.551,p=0.001)。さらに①腰痛の主観的強度は⑦医療機関などのフォーマルな社会資源の利用頻度との間に正の相関が認められた(r=0.432,p=0.01)。

【結論】先行研究同様に慢性腰痛がQOLを低下させることがわかった(Inoue, 2015)。また,経済的状況,自身の経済状況や社会的地位が劣ると精神的ストレスを生み出し,不健康な行動を起こす要因となるというRunciman(1966)の報告と一致した。慢性腰痛患者は,疼痛を強く感じる者ほど医療機関にかかる頻度が多かったが,先行研究と異なり社会的交流の頻度や大きさ,および地域資源の利用頻度との間には相関が認められなかった。Demuraら(2002)によると,友人が少なく社会的交流が少ない高齢者は,鬱傾向となると報告している。本調査の結果から慢性腰痛患者は,医療機関に通うことにより地域で行うことが困難である社会的交流や地域資源の利用を代替している可能性が考えられた。社会的交流や社会資源を活用できる地域作りを進め,医療機関に過度に依存しない生活環境を作る必要があると考えられた。

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© 2017 日本理学療法士協会
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