理学療法学Supplement
Vol.48 Suppl. No.1 (第55回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-13
会議情報

シンポジウム2 神経系理学療法における基礎と臨床の接点
損傷脳に対する神経再生療法とリハビリテーション医療の可能性
田尻 直輝
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 成熟哺乳類の中枢神経系に一度損傷が起きると,再生・修復が不可能とされてきた。しかしながら,近年,様々な種類の幹細胞を用いた再生医療の発展により,脳梗塞,頭部外傷,パーキンソン病,脳性麻痺,脊髄損傷などの中枢神経疾患モデル動物を対象に,機能的・神経組織学的改善が得られることが証明され,すでに世界中で臨床試験が開始され始めている。

 幹細胞は,自己複製能と多分化能を併せ持つ細胞と定義されており,造血系や皮膚など多くの組織に多能性幹細胞が存在することが知られている。また,神経系にも同様に神経幹細胞が存在し,自己複製能に加え,ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトなどに分化する多分化能を備えていることも明らかにされている。現在,神経幹細胞や間葉系幹細胞を含む,様々な幹細胞療法の開発が国内外で精力的に進んでいる。

 一方,中枢神経疾患患者に対して,優れたリハビリをすることにより患者の状態が身体面はもちろん,精神心理面でも著しく好転することが経験され,リハビリは重要な治療の一つであることは明らかではあるが,その全容が未だ明らかにされていない。我々は,脳損傷後のリハビリが及ぼす作用機序に関しても,強い興味を持っている。近い将来,目まぐるしい再生医療の発展によって,仮に中枢神経が組織学的に修復できたとしても,身体機能面・精神心理面で効果,すなわち神経回路の形態的・機能的再編成が生じなければ意味がない。そこで重要な役割を果たしていくのが,神経機能の再教育とも言われているリハビリであり,移植治療においても重大な意義があると期待される。本講演では,これまで我々が取り組んできた中枢神経疾患に対する細胞移植治療やリハビリを利用した機能再生・再建の可能性について基礎研究面からご紹介させていただく。

著者関連情報
© 2021 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top