抄録
私達は,従来のpush back法による口蓋形成術の多くが思春期頃に上顎の劣成長をきたし顎矯正手術が必要になったという経験から,顎発育抑制の少ないとされる二段階口蓋形成術を行ってきた。今回,本学口腔外科で出生直後より一貫治療システムによって治療を行っている片側性唇顎口蓋裂患者164例のうち,本学矯正科にて治療中の片側唇顎口蓋裂患者68例のうち長期followが可能であった症例で最終的に顎矯正手術を施行するに至った4症例を提示し検討を行った。
検討した項目は矯正歯科初診時,永久歯列が完成し本格矯正開始時および顎矯正手術時における側面頭部エックス線規格写真より角度的計測項目16項目を計測した。さらにフェイシャルプロフィログラムを作成し,側貌のパターン分類を行った。
症例1:男性,巨舌,舌突出癖があり矯正歯科初診時の時点ですでに開咬を呈していた。18歳時に,Le Fort I型骨切り術,下顎枝矢状分割術,舌縮小術を施行した。
症例2:女性,矯正科初診時では上顎の軽度後退を認めた。思春期に入り下顎の過成長がさらに著明になったため,16歳時に下顎枝矢状分割術を施行した。患者の兄も下顎前突症で顎矯正手術を受けており遺伝的な要因が示唆された。
症例3:男性,矯正科初診時および本格矯正開始時には軽度の上顎後退を呈し,下顎は正常範囲にあった。当初歯科矯正治療だけの治療計画を立てていたが,患者が治療期間の短縮を望んだため,18歳時に下顎枝矢状分割術を施行した。
症例4:男性,矯正科初診時にすでに上顎の軽度後退と著明な下顎前突を呈していた。さらに下顎の過成長が進み,19歳時にLe Fort I型骨切り術,下顎枝矢状分割術を施行した。
4症例とも,顎矯正手術に至った原因は二段階口蓋形成術による影響よりも他の因子が大きく関係していると考えられた。