国立成育医療研究センター矯正歯科を受診した患者の疾患分布を把握する目的で,2010年4月から2020年3月までに来院した先天性疾患を有した839名について実態調査を行った。また矯正歯科治療における保険適応疾患と小児慢性特定疾病の適用範囲を比較,検討し,以下の結果を得た。
1. 非症候群性口唇・口蓋裂,ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む),ダウン症候群,ベックウィズ・ウィーデマン症候群,頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群,尖頭合指症含む)の順に多く,合計84の疾患を認めた。
2. 6例以上を認めた疾患は,いずれも矯正歯科治療における保険適応疾患であった。
3. 非症候群性口唇・口蓋裂患者313 例の内訳は,口唇裂(23 例),唇顎裂(56例),唇顎口蓋裂(156例),口蓋裂(78例)であった。
4. 矯正歯科を受診する機会の多いゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む),ピエール・ロバン症候群やラッセル・シルバー症候群などは,矯正歯科治療において保険が適用されている疾患だが,小児慢性特定疾病においては非適用となっていた。
5. 矯正歯科治療における保険適応疾患は,小児慢性特定疾病の16疾患群中11疾患群に対応しており,小児慢性特定疾病の全845疾病のうち66疾病(7.8%)を占めた。
以上の結果より,発生頻度が高く疾患特有の不正咬合を有することが広く認知されている疾患患者の来院が多く,原疾患に起因した咬合異常改善のための保険行政支援が適正に行われていることが確認された。小児慢性特定疾病には,矯正歯科治療における保険適応疾患には含まれていない,歯科的に希少な疾患が多く含まれており,それらの疾患に起因しうる不正咬合を把握し,情報発信を行うことで,矯正歯科治療の保険適応疾患がさらに充実するよう働きかけることが重要であると考えられた。
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