唇顎口蓋裂児に対する術前顎矯正は,乳児期の哺乳機能の障害を改善し,裂隙の整形を目的とする治療である。明海大学病院では,CAD/CAM(computer-aided design/computer-aided manufacturing)技術を利用して術前顎矯正で用いる口蓋床を作製している。このようなデジタル化により患児や保護者の利便性は向上しているものの,作製された装置の哺乳機能に対する効果には不明な点がある。そこで,片側性唇顎口蓋裂乳児より得られたデジタルデータを用いて,裂隙や口蓋へのリリーフ量を変えて口蓋床の哺乳機能に与える影響を検討した。
対象は,当院矯正歯科を受診した5 例(男児3 例,女児2 例:右側唇顎口蓋裂2 例,左側唇顎口蓋裂3 例)とした。5 例に対し口腔内スキャナーにより口腔内のSTL データを採得し,歯科用CAD ソフトを用いて裂隙と口蓋に対し複数のリリーフを行った。その後,3D プリンターを用いて出力された複数の口蓋床を患児に装着し1 日総哺乳量(mL)を記録し,リリーフの影響を検討した。
採得されたSTL(standard tessellation language)データは,顎堤部分に加え鼻中隔下端の撮像精度に優れ,口蓋深部の形態再現性が高かった。そのため,裂隙により変形し対称性が失われた口蓋形態を正確に再現し,リリーフすることが可能であった。製作された口蓋床は床の厚みを2.0 mm に統一し,複数のリリーフ量を与えることで異なった口蓋高径が付与された。このうちリリーフにより口蓋高径を8.0 mm とした口蓋床は全例で装着可能で,1 日総哺乳量は健常乳児の80%以上であった。
術前顎矯正治療で使用される口蓋床作製のデジタル化により,リリーフ量と口蓋形態を数値化し,適切な口蓋高径を付与した口蓋床の製作が可能となった。デジタル技術は,印象材の嘔吐や誤嚥のリスクを回避できるだけでなく,片側性唇顎口蓋裂乳児の哺乳機能の向上にも寄与すると考えられる。
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