背景:口蓋化構音(Palatalized misarticulation:以下,PM)は,様々な舌と口蓋の接触パターンがみられる。聴覚判定による構音位置の逸脱の程度を評価するために,PMのbacking score(以下,BS)による聴覚判定評価を試みた。
目的:PMのBSの聴覚判定の信頼性を検討し,PMの分類を検討すること。
研究デザイン:構音に関する複数の聴取者による段階づけを利用した聴覚評価の前向きの比較研究。
方法:4名の研究参加者(音声学専門職2名と言語聴覚士2名)は,口蓋形成術後患者の55名のPMの日本語の音声資料を評価した。聴取者は,5つの単音節のVCV音声サンプルである[asa],[ata],[oto],[utsu],[iɕi]について,国際音声記号(IPA)を用いて,後ろ寄りの記号(-)あり/なしの2種類のBSパターンを転記した。1週間後に聴覚判定を繰り返し,評価者内信頼性を評価した。また,評価者間信頼性も算定した。
結果:後ろ寄りの記号を使用せずにbackingの誤りをコーディングした場合,より高い評価者内および評価者間信頼性が観察された。信頼性は,破裂音のVCV[oto]で最も高く,摩擦音のVCV[iɕi]で最も低くなった。また,PMの構音位置については,軟口蓋,硬口蓋,後部歯茎の3つの部位が認識された。
結論:後ろ寄りの記号を用いないBSの導出は,PMのエラーを細分化するのに有効な手段であると思われる。しかしながら摩擦音の場合,BSの聴覚判定の精度には限界がある。今後の研究では,EPGのような聴覚・視覚評価を含めることで,測定者の精度と誤りのコーディングの信頼性を向上させることができるかどうかを検討する必要がある。
また,転記所見から,PMは後部歯茎化,硬口蓋化および軟口蓋化に細分類が可能であることが示唆された。
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