日本口蓋裂学会雑誌
Online ISSN : 2186-5701
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原著
唇顎裂・唇顎口蓋裂患者に用いる人工歯付き固定式保定装置
—接着ブリッジとしての可能性—
内野 夏子須佐美 隆史岡安 麻里丸岡 亮宇賀 凜大久保 和美星 和人
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2020 年 45 巻 3 号 p. 203-212

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抄録

口唇裂・口蓋裂患者に対し矯正歯科治療を行い,空隙を残し保定へ移行する場合,われわれは人工歯付き固定式保定装置を多用している。今回,当科における適用の実態を調査したので報告する。対象は1993年〜2019年までに当科にて保定へ移行した唇顎裂・唇顎口蓋裂患者308名で,資料として診療録,口腔内写真,エックス線写真,歯列模型を用いた。裂型,経過観察期間,保定開始時における顎裂部歯列空隙の有無,人工歯付き固定式保定装置を用いた割合,人工歯付き可撤式保定装置より本装置への装置変更あるいは本装置より補綴装置への変更,人工歯排列位置,人工歯数,舌側ワイヤーによる固定範囲,可撤式保定装置併用の有無,破損(Kaplan-Meier法による機能的生存率)および支台歯のう蝕発生について調査した。裂型は308名中,片側性唇顎裂72名,両側性唇顎裂9名,片側性唇顎口蓋裂142名,両側性唇顎口蓋裂85名,経過観察期間は平均4年1ヶ月であった。保定開始時,顎裂部に空隙が存在したものは65名(21.1%)で,本装置を用いたものは23名(35.4%),保定中の装置の変更は,人工歯付き可撤式保定装置から本装置に変更したものが5名で,合計28名(43.1%)に本装置を適用していた。本装置から補綴装置への変更は3名で行った。本装置における人工歯の排列位置は,側切歯1歯が17名(60.7%),中切歯1歯9名(32.1%)であった。舌側ワイヤーによる固定範囲は,3〜8歯であった。28名中26名(92.9%)が可撤式保定装置を併用していた。機能的生存率は13年6ヶ月で72.2%,う蝕を生じたものは5名(17.9%)であった。本装置は,矯正治療後の前歯部保定が行え,暫間的使用だけでなく接着ブリッジのように長期的使用も可能であった。しかしながら,4〜6ヶ月ごとに定期診査を行うなどの適切なメンテナンスが必要と思われた。

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© 2020 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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