抄録
1.唇顎口蓋裂手術の「匠」に対する私の考察
唇顎口蓋裂手術を的確に成就させるための「匠の技」を長年,考え,学んできた。手術に向かう心構えのヒントになった以下の項目について考察した。
①Cleft Craft,②Als longa vita brevis,③感性と器具,④手術におけるこだわり,⑤謙虚な心構えと負けない手術,⑥From birth to maturityの一例から匠を学ぶ
2.講座のPerko法による二段階口蓋形成術の概要
著者が在籍していた教室では1982年以降,完全口蓋裂に対する口蓋裂の一次手術をチューリッヒシステムの顎発育を考慮するPerko法の二段階口蓋形成術をルーティーンに施行してきた。本法は,第1段階として1歳6ヶ月頃に粘膜弁法による軟口蓋形成術を実施し,二段階目として4歳6ヶ月から5歳頃に粘膜骨膜弁法による硬口蓋形成術を行うものである。
本法のoutcomeは以下のごとくである。軟口蓋形成術が的確に施されれば,良好な鼻咽腔閉鎖機能が得られ,その後の硬口蓋形成術によって鼻咽腔閉鎖機能がさらに賦活化され,良好な構音運動と言語が獲得された。聴覚的判定の他にNasometerによる音響分析およびXテレビシステムによる解析などの客観的なデータからもその知見が導かれていた。本法施行の患児の石膏模型観察とそれを用いた三次元デジタイザーによる計測データを,一期的粘膜骨膜弁法を行った患児と比較した結果,良好な顎発育と咬合さらに深い口蓋を示す結果が得られていた。
本法の長期経過を観察しえた193名のうち咽頭弁移植術の適応になったのは8例の4.1%,Le FortⅠ型骨切り術の施行にいたったケースは193名中5例2.6%であった。
軟口蓋形成術を成功するためのコツとして,大口蓋神経血管束を損傷することなく血流のいい粘膜弁を作製する方法および口蓋帆挙筋の結合を図りながら軟口蓋全体の十分な後方移動を同時に図るテクニックなどを説明した。