日本口蓋裂学会雑誌
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脊髄小脳変性症における鼻咽腔閉鎖機能に関する研究
桑田 清美牧 正啓吉川 雄二田代 直子田中 弥輿田縁 昭
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1990 年 15 巻 2 号 p. 107-115

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抄録
脊髄小脳変性症は,小脳・脳幹・脊髄の変性性病変とそれに伴う症候を特徴とする一群の疾患で,主症状としては,運動失調と痙性運動麻痺による上肢運動障害,下肢運動障害,言語障害があげられている.そのうち,言語障害については,構音器官の運動失調によりさまざまな要素がみられる.今回著者らは,言語障害のなかで特に開鼻声の存在に着目し,脊髄小脳変性症において聴覚的検査,流体力学的検査に加えて,鼻咽腔内視鏡学的検査を行い若干の知見を得たので報告する.
研究対象は,熊本大学医学部附属病院第一内科およびその関連病院にて脊髄小脳変性症と確定診断のついた,24歳~78歳の男性4例女性6例の計10例であった.
研究方法は,聴覚的検査(発語明瞭度検査),流体力学的検査,鼻咽腔内視鏡学的検査の3方法で行った.
結果は,聴覚的検査では,単音節は97.0%~79.1%,平均88.4%,3音節については94.0%~40、3%,平均74.5%であった.流体力学的検査においては,検査し得た7例中2例において発音時の鼻腔漏出が認められた.鼻咽腔内視鏡学的分類では,0型が3例,Ic型が1例,皿型が2例,rV型が1例.blowing時のみ不完全閉鎖をしめす症例が2例,嚥下,一部子音および母音で完全閉鎖を示す症例が1例であり,これら3例は山岡の分類に該当しなかった.
これらの結果より,流体力学的検査,内視鏡学的検査ともに鼻咽腔閉鎖不全を認めた開鼻声の著明なものから,流体力学的検査では鼻腔漏出のなかった軽度なもの,鼻腔漏出を認めなかったものまでさまざまな程度の鼻咽腔閉鎖機能状態を呈した.これは同疾患の障害の進展部位が,疾患のパターンにより異なることにあると思われる.このことは反対に言語障害の程度を検討することにより,病型を決定したり,症状の進行状態を把握するのに役立つものと推察された.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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