抄録
口蓋裂手術の目的は正常な発育と機能を維持する構成組織の基本的能力を障害しないで可及的早期に口腔環境を整備することにある.口蓋弁後方移動術に代表される現在の手術では口蓋側方に骨露出が残遺され,これによる創収縮機序が顎発育障害を惹起する初期的要因とされており,これを軽減するためには手術方法や手術時期を再検討することが重要である.粛槽頂上に残された創面の収縮は少ないこと,歯は創部に向って萌出する傾向があることなどの臨床的所見から,私たちは純系ビーグル犬を用いた一連の動物実験においてRidge Falp手術法を考案し検討した.その結果,乳臼歯萌出以前の早期段階で施行される本手術法は従来のPushback法よりも上顎骨の側方発育に極めて良好な結果を得ている.顎発育障害軽減に関するその他の仮説の検証を試みた同様の動物実験結果についても併せて記載した.