日本口蓋裂学会雑誌
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1.口唇裂およびその手術についての私見
丹下 一郎
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1994 年 19 巻 4 号 p. 203-215

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抄録
著者の過去約40年に亘る口唇裂治療の経験を基として,口唇裂の形態に関し下記5項目について臨床的観察と結果を纏め,手術法についての意見を加えた.
主な研究対象は,生後3ないし4カ月の各種の口唇裂乳児432例である.
(1)披裂の程度(degree):外鼻口唇,歯槽のそれぞれに披裂の程度(裂度)を測定した結果外鼻,口唇ついては0度(正常)より約50度までの分布を認めた.いわゆる不全裂と完全裂との境界は23度前後である.将来の目標として,このような裂度に従った手術法の段階的適応が考慮されよう.
(2)披裂の形式(type):口唇裂は外鼻(孔底)裂,(狭義の)口唇裂,および歯槽(突起)裂の3っから成る複合奇形として把握される.その披裂発現の優先部位に従い外鼻型,口唇型,歯槽型,および症例の多数を占める混合型の4つの裂型に分かれる.裂型に応じて手術の範囲・規模などの適応が定められるべきである.
(3)披裂の側性(1aterality):いわゆる片側性口唇裂と両側性のものとの中問には,中間性と呼べるような移行症例が少なくない.そのような場合には左右均斉に関して手術に特別な配慮が必要である.
(4)組織の偏椅(deviation):顎・口蓋と異なり,外鼻・口唇では軟部組織に独特な伸縮や歪みがあるので,その偏椅の方向・量を勘案した手術計画が大切である.とくに歯槽裂の閉鎖には組織弁を前後(矢状)方向に架橋し,左右方向の緊張を避けることが顎の自然矯正のために必須である.
(5)組織の不足(deficiency):全前脳症の場合ほど極端でなくとも,鼻頭~鼻柱~人中~上唇小帯~中間顎の領域に組織の不足を感じる症例は稀でない.かような場合は歯科的処置にも困難な問題があるが,口唇については成人してから下口唇弁による補填,ことに著者によるラムダ型唇弁の移植が有用である.
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© 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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